好評の大全集、第39弾は中国に伝わる話をもとに落語に仕立てられたという「文七元結」(76年録音)と、「へっつい幽霊」(74年録音)のカップリング。「文七元結」は舞台劇化され、六代目菊五郎やエノケンまでもが上演したという、人情噺の極致。
ちょっとお色気の入ったお噺「なめる」が、下品にならないところはさすがの圓生。女性の描写がひたすら感心するほどにうまい。「甘四考」では大正や昭和初期あたりを知る人なら懐かしい描写が続々。当時の風俗のおかしさを知る粋人ならではの快作。
坊主が着ている錦の袈裟をふんどしにして吉原にくりだす「錦の袈裟」は、昔は露骨に「ちん輪」とも言っていた噺。弟が商売の元手を借りに行ったら三文しか貸さない兄との関係の描写から夢の中での会話など、演者の力量がもろに出てしまう「鼠穴」は逸品。
圓生百席の45名中の33枚目。74年吹き込みの噺が収録されている2枚組。1枚目は大阪の金原亭馬生から教わったという「猫定」。猫の仇討ち怪談噺。2枚目は初代柳家小せんから習ったという「寝床」。義太夫つきの古典もの。いずれもたくまざる巧さはまた格別。
三題とも高座にかける人があまりいない噺で、圓生の抜けた穴の大きさを改めて実感する。「猫忠」の化け猫の台詞まわしなどは、もう語れる人はいないだろう。昭和の名人の貴重な記録として大切にしたい。“藝談”は別に組み込んでほしかったけど。
「派手彦」は、42歳で性に目覚めたというオクテの番頭が、純愛一途で結構した踊りの師匠が旅へ。番頭は悲しみのために石に化す。まくらの面白さや番頭の細かい描写は、圓生独特のもの。また「引越しの夢」は、昔の大店の様子を生き生きと描いている。
貝原益軒や小野蘭山ら日本の本草学者たちと、ツュンベルクやシーボルトら欧州から来日した学者たち両者の記述を比較・検討し、江戸の日本人による植物研究の全体像に迫る。
落語の中でも枕の部分が楽しいとグングン引きつけられるものだが、圓生の絶妙な味が生かされた枕をこのCDでも堪能できる。またバカ殿モノである「蕎麦の殿様」も、たっぷりと笑わせてもらった後で何か心に暖かいものが残る。本人による解説も収録。
圓生百席の聴きもの、楽しみの一つがお囃子とその選曲だ。中でも子供の頃から義太夫を語っていた圓生ならではの噺「豊竹屋」(75年)で、さすがの“猿迴し”を使っている。民話風のとぼけた噺「夏の医者」(74年)は、テケレッツのパァとしめている。
圓生師が亡くなる4年前、昭和50年に録音された3作、「代脈」「田能久」「茶の湯」が収められている。この盤に限っていうことではないが、ライナーに「内容は伝承古典落語ですので現社会には実在しません」とある。こうした噺をさらりとこなせる名人はそういない。
昭和の名人、六代目三遊亭圓生が残した遺産を紹介するシリーズの28作目。「付き馬」で語られる、大正末期の吉原、浅草の生き生きとした情景、どこか憎めない詐欺男と吉原の若い衆のやりとりの見事さに感服。
「中村仲蔵」は六代目後期の自信作。芝居の知識が“常識”ではなくなった時代にこの手の噺を演じるのは難しいが、さすが六代目、流れを断ち切ることなく解説を巧く溶け込ませて噺を運ぶ。学校ではあまり教えてくれないことを教えてくれる落語は素晴らしい。
江戸時代に各藩の大名が競いあって造った庭園。いまなおその優美さを残す全国の庭園38カ所を写真や絵図で紹介。付録-全国大名庭園マップ、庭園用語ミニ辞典。
品川の女郎お染に心中をもちかけられたが、土壇場で裏切られ自分だけ死にそうな目にあった金蔵が幽霊と偽って仕返しを図る「品川心中」を、“下”まで含めて収録。もう一編は外国の話に題材を取ったという「死神」。
(1)は前半を縮めて演じられることが多い噺だが、ここでは、3人の旅人が馬子にからかわれたり、年を取った尼女郎にヘキエキとされるなど、円生らしい細かい描写を織り込み、通しでたっぷりと聴ける。(2)は代表的な狂歌噺で、女中の物言いが生き生き。
(1)はけっこう有名な噺だが、ふたつの長いマクラが珍しい。高座でなかなかこんなにたっぷりとは聴けない。(2)も江戸の芝居を丁寧に解説した上で始まるから、特別な知識がなくても楽しめる。今回の噺では「質屋庫」が圓生らしい人物描写の妙を堪能できる。
75〜76年のスタジオ録音。女房に先立たれて悲しんでいる捻兵衛を人魂で騙す「樟脳玉」では、いくつも呉服の名が出てきて着物の知識の程が問われてしまう。「洒落小町」は女房の悋気を題材にした噺だが、ここまで女房にヤキモキしてもらえるとはね。