姿も語り口も端正な人だったが、若い頃は噺の方もノッペリした感じだったろうな。年とともに味が出て、ついには“昭和の名人”と。「小言幸兵衛」「百川」といった馬鹿ばかしさを持った噺に、この人の面白さがある。名人が軽い噺を演じる粋な味がいい。
明るさ、華やかさを持った芸は、良き時代の寄席の味を伝えてくれた。「味噌蔵」での酒盛りの場面、「野ざらし」の向島大騒ぎのオンマツなど、この人の軽妙洒脱な語り口は、さすが江戸っ子しかも元幇間。こういうタイプの落語家はもう出てこないんだろうな。
京都と大阪を往復する“三十石船”を舞台にせっかちな江戸っ子と京都気風のギャップを楽しく聞かせる。得意の義太夫を唄いたっぷりとした道中物に。『佐々木政談』の頓智問答は、ナンセンスなギャグを恐い顔で話す円生の高座を思い出させる。
明るい色気の藝風は、江戸の面影を残した古き良き東京の最後の噺家と言える。洒落・粋の感覚は絶品で、一時期、幇間を経験したところから培われたものだろう。今回は幇間ものは収録されていないが、軽妙な語り口の爆笑ものでこの人の味を堪能できる。
あっしみたいなモンが落語を語るのも、おこがましすぎていけねェやな。でも円生の辛口で硬めな語り口は少々堅苦しくもある。だからと言って、つまらないという訳ではない。「豊竹屋」には笑わしてもらった。解説にあるように義太夫や三味線の素地がないとこの咄はできない。各盤に添えられた簡潔なプロフィールも気が利いているがダブリがあるのは残念。録音データも欲しいところ。
六代目三遊亭圓生の巧みな話芸を収めた圓生百席シリーズ第一弾。江戸時代のケチをユニークに描いた74年録音の「一文惜しみ」、映画『幕末太陽伝』の元筋、75年録音の「居残り佐平次」を収録。江戸訛りを取り入れたり、セリフのひとつひとつが味わい深い。