「僕が故郷に漠然と期待したのは避難港だった。ところが、それどころではなかった」-郷里に居を移した及川晃一を迎えたものは心と体を揺さぶる無数の波の如き思いであった。現実と幻想の間をたゆたう若き文学者が、ひとりの女性をきっかけに新しい境地に向かうまでを描く朝日新聞連載小説。
「小さな頃から何者かによって生かされているという感覚が離れない。偶然と人が呼ぶ出来事も私にとってはすべて必然なのである」-辛酸をなめた小学校時代、17歳での嫁入り、川柳との出会い、58歳の再婚…自らの人生を必死で生き抜くうちいつしか女流歌人は自分を導く「巨きな力」に気づき、深い感謝の念を捧げるのだった。時に厳しく時にユーモラスに語りかける感動のエッセイ。
独身の実業家・五十嵐が殺され、残されたさつき、友美、知恵の三人の愛人に容疑がかけられた。互いに疑心暗鬼に陥った三人。莫大な遺産を巡って第二、第三の悲劇が…。やがて十津川警部は、事件の裏で糸を引く狡猾な真犯人の存在を察知する。会津と日光を舞台にした傑作長篇トラベル・ミステリー。
全貌が未だ解明されていないSIDSをはじめ、流産、死産、新生児死亡など、最愛のわが子を亡くした家族はどのようにその事実を受容し、乗り越えてきたのか。また、周囲の人々には何ができるだろうか。父や母、家族みんなが書き綴った克服の記録。
幸福駅の切符がもたらす災厄を十津川警部が推理。探偵事務所を開いた元警官に舞い込んだ奇妙な依頼は、廃線となった北海道・幸福駅の切符を買い、駅に絵馬を掛けることだった。約束を果たし訪ねた依頼人の部屋には血痕が飛び散り、かつての仲間十津川警部たちが居た。四つの難事件に十津川が挑む傑作短編集。
菜乃子は生きる方向性も、生きる気力も失いかけていた。5歳の時に事故がもとで植物人間になってしまった母、ヨーロッパ留学中に消息を断った兄は生死さえ判らない。そして今また、実業家の父はガンで急逝してしまった。菜乃子が生きる希望をつなぐ猛は、新しい恋人に心を移してしまった。18歳の菜乃子の精神はズタズタに引き裂かれ、その悲しみは果てることなかった。新進作家・青山紫子のセンセーショナル青春小説第2弾。
遊郭、赤線、そして同性愛者の街。新宿二丁目でくりひろげられる、愛と哀しみの人間ドラマ。
著者エリザベス・コリックは、英国シェフィールドの「クルーズ」支部で死別カウンセリングにたずさわり、その体験をもとに本書を執筆しました。本書は愛する人との死別で、悲しみや追慕の思いに苦しんでいる人たちへ、心の悲しみ・苦しみに立ち向かう「支え」と「勇気」を届けるための本です。
東京郊外の高校に通う周平は、剣道部の主将として充実した毎日を送っていた。ところがある日、父親の会社が倒産。学費や妹の小遣いを自分で稼ぐことになった。考え抜いた末、周平は幼なじみの沙代子と有料人助けの会「悲しみ君、さよなら組」を結成。恋愛、いじめ、用心棒…次々に舞い込む難題を、たくましく解決していくトラブルバスター・周平。真のやさしさとは、そして本当の悲しみとは…。
時間や空間は心理学の指標で計ると、自由自在に伸び縮みする。何十年という時を経過しても、心の中に悲しみをひきずっている。人間は苦悩する。苦悩を心の底から絞りだすように語るとき、逃げだしたり、あわてたりしない人と今という時間をともにしたい。
生きることの大切さを私たちは患者に教わった。病院には、希望、悲しみ、喜び、孤独、愛、生と死-のドラマがある。
本書は、上・下巻合わせて15章からなる数学の読み切り短編集です。上・下巻のどこでも興味のある章からつまみ読みしてください。数学に文字どおりの美しさを見る人は少ないのかもしれません。本書では、若い人たちの柔軟な感覚にあやかって、すてき、おもしろい、かっこいい、あざやか、意外、不思議、神秘的などを全部ひっくるめて「美しい」という言葉で表現しています。
病い、老い、そして死ーいのちをみつめて生きる。私たちの小さないのち、このいのちの重さにめざめる。今、生きていることは、決して当たり前ではなく有ること難い、いのちだと知ること。