20世紀の最後を飾る繁栄と貧困、光と闇、生と死、真実と虚偽の激しい対照と矛盾を抱えた、限りなく深い謎に包まれたバロックの世界。
離婚経験後、念願のベストセラー作家となった彼女の絶頂期はあまりにも短かった。最愛の息子の突然の事故死。生きる意欲を喪失しかかった母親の苦悩に追い打ちをかけるように、アルコールに溺れてゆく一人娘…。失意と絶望の淵から立ち上がり、再び人生と愛を信じられるようになるまでを綴った、感動の記録。
戦後の樺太=サハリン。日本人だけを乗せて出港する引揚船を見送りながら、朝鮮半島出身者たちは一日も早い帰郷を夢見た。なぜ、半世紀を経た今日まで、彼らはサハリン島に閉じ込められたままなのか。「もう命の時間はない、せめて故国の地に眠りたい」という悲痛な叫びを聞きながら、冷静に事実を追い、国と国との軋轢と、無関心の狭間に取り残された人々の五十年の軌跡をたどる。
旧友の愛娘、教え子、そして何よりも、最愛の女性-そのプリルが人生の春に命を散らせてしまうとは!しかも何者かの手によって。ニール・ケリー教授の喪失感はたとえようもないほど大きかった。妻を病で失って7年、ようやく心の拠り所を見出したと思っていたのだが…。プリルが殺害されたのは、図書館で毎春行われるコンサートの最中だった。何者かに殴られて書架の後ろに倒れているのを発見されたのだ。状況から判断して犯人は大学内の人間と考えられた。だが、いったいどんな理由で誰からも愛された彼女が殺されたのか?プリルの両親から懇願され、ニールは絶えざる苦悶に苛まれながらも、捜査を担当するスカーリー署長に協力して周囲を調べ始めた。大学内に渦巻く愛憎、そして現実と過去の狭間から現れた事件の真相とは?洗練された比喩をちりばめた知的な文体で描く愛と殺人-MWA,CWA賞候補の本格傑作。
バーでかなり酔っていたミランダは、男の視線を感じ、声をかける。「ずっと見てたでしょ。あなた、わたしのことほしいの?」男の目に軽蔑の色が浮かんだ。「いや、女嫌いさ。ご主人はきみが夜、遊び歩いてもなにも言わないのかい?」「夫は…亡くなったの。三週間前なの。たまらないわ!」涙ぐんだミランダは急に立ちあがると、走るようにして出ていった。男は彼女が忘れていった小さなバッグをつかむとあとを追った。じきにミランダは、シカゴ川の橋の欄干で見つかった。「だめだ、やめるんだ」と叫ぶと、男はミランダの体を支えた。「ただ、毎日がつらいだけ」とつぶやく彼女に男はやさしく一緒に来ないかと誘った。恋の始まりだった。
その日の朝、ホテルのテラスで出会った無礼な態度の男がエドワード・カーライルだと知って、ジュリエットは茫然とした。彼は二カ月前に亡くなったカーライル不動産の社長の長男で、遺産として会社の経営権を五十パーセント受け継いでいる。残りの権利は社長の個人秘書だったジュリエットが譲り受けた。だが、エドワードの承諾なしには何も決定できないのに、国際的ホテルチェーンの社長である彼は、会おうともしない。ジュリエットは仕方なく、エドワードがこのホテルに来るという情報を頼りに捜していたのだ。彼はわたしが誰か知ったうえで、不意をつく機会を狙っていたんだわ。でも、こんな魅力的な男性だとは…。そのとき、彼女の心に七年前の悪夢のような出来事がよみがえった。
幼い時に両親を失ったグレイスは孤児院で育った。十八歳でイギリスを去り、イタリアへ渡った彼女は、名家で大富豪ヴィトーリア家の長男ドナードに見そめられ、十九の時に結婚した。財力、名声、容貌、知力、すべてに最高のものを備えたドナートが、どうしてわたしのような何もないおずおずした少女を妻に?それでも彼は熱愛してくれた。夢のような一年、彼女は身ごもった。玉のような男の子パオロに恵まれたころは、幸せの絶頂だった。しかし、その大切な赤ちゃんに突然の死が襲いかかる。悲しみのどん底に落ちたグレイスの、心の傷が癒える間もなく、夫ドナートの裏切りが。グレイスはイギリスへ逃げ帰った。だが、そのままですむはずもない。
ジェイク・ルーカス!どうしてあなたがここに?友人の子供の命名式パーティーに出席していたロージーは、思いもかけない人物の姿を見てその場に凍りついた。十五年前ー友人に誘われて行ったパーティーで彼女は酒を飲まされジェイクのいとこにレイプされたのだった。ショックで身動きもできず半裸でベッドに横たわっていた私。そんな姿を、部屋に入ってきたジェイクに見られてしまった。今、彼はまたあの冷たい軽蔑のまなざしを私に向けている。違う。私が誘ったんじゃない。無理矢理奪われたのよ!その屈辱的な出来事を誰にも打ち明けられないまま、ロージーはずっと苦しみ続けていた…。
幼なじみのジュード・レントンにあこがれ、一度は彼と深い仲になったシャーロット。だがわけあって二人は辛い別れを経験し、別々の道を歩んだ。ロンドンに出て旅行代理店でキャリアを積んだシャーロットは、その後同僚と一緒にストラトフォードの町で旅行代理店を始める。一方ジュードは映画俳優としてデビューし、成功を収めていた。町の観光名物シェイクスピア生誕祭の行列で、シャーロットは七年ぶりにジュードの姿を見て胸が痛んだ。彼のことはもう忘れたと思っていたのに…。大丈夫よ、大スターになったジュードと私が会う機会などないわ。ところがその日の記念昼食会で、二人は顔を合わせることになってしまった。