「そうです。皇帝の1日は、通報者たちの報告を聞くことから始まります。危険な企ては夜生まれます…」。密告制度を張りめぐらし、飼いライオンにしか心をひらかなかった“哲人皇帝”ハイレ・セラシエ。世界最古の帝国に君臨した独裁者の、孤独と猜疑にみちた権力の日々が、そして暗黒政治の実態が、当時宮廷に仕えた召使いたちの生々しい証言によって、赤裸にあばかれる。いま静かに上がる、エチオピア帝国崩壊のドラマの幕-。
ひとつの節目にあたる中年世代の、心や身体、職場や家庭の問題にふれながら、危機への対処の仕方と充実した人生を考える。
自らのスタジオで1羽のニワトリを飼い、観察し、精巧な卵を次々と生み、美しい生体機械と化し、やがて醜悪に朽ちてゆくそのハナコの姿に向けて、時代の見えない不安や衝動をすくいとろうとするかのようにシャッターをきる。ハナコたちは、寿命や卵を生む数や体型や体重や毛色や卵の色さえもが完壁にコントロールされ、こうした生体技術は今や遺伝子を操作し、新しい生物を生み出すことさえできるのだ。そしてまさにこれらの見えない技術のネットワークが我々の周りを取り囲んでいる。ハナコはいわばそのような我々の世界の見えないシステムをあらわにする触媒のようなものなのだ。
禅宗の悟りの手引きである「公案」三十則を取り上げ、従来にない踏み込んだ解釈で、現代を生きる我々に則して書かれた禅入門の書。
おいしい絵本。フランス料理をよりおいしく、楽しく食べるために…。
ひとりの少女が、街をゆく。一ぴきの年老いた猫をつれて。少女と猫-ふたりの孤独な親友の、自由と夢をもとめる日々のものがたり。『ねこに未来はない』の姉妹編・物語エッセー。
脳卒中でたおれ、歩行も困難な後遺症を克服しつつ職場復帰を果たした著者が、闘病の感懐や情報をワープロで打って、毎月一回欠かさず知友に送った通信(現在も継続中)を原形に近い形でまとめる。
「小説か、真実か」。愛と魂のリ・インカーネーション。ビジネス界で活躍する一人の男が、追憶のなかで自分の〈前世〉を垣間みる…。過去に繰り広げられる感動ドラマ。愛と魂の前世小説。
1937年7月、盧溝橋事件が勃発し、北京は陥落、日本の敗戦までの8年間の占領の日々が続く-。その北京に当時生活していた20名の中国人が、傀儡政府や傀儡住民組織「新民会」の成立のいきさつ、警察局や憲兵隊の実態、監獄での待遇、地下闘争の舞台裏、皇民化教育の現場、劣悪な食糧や文化生活など、占領の日々を詳細に生々しく語り、対日協力者や抗日レジスタンス群像の生きざまを回想する。歴史を揺り動かすような革命が進行中の北京にずかずかと土足で入り込み、ナショナリズムの火に油を注ぎ、抵抗勢力によってじわじわと周囲を詰め寄られていく日本軍のありさまが、如実に伝わってくる、迫真のレポート。
日本文学史上に重要な位置を占めてきた漢文学の伝統を現代に伝える漢詩人の自選詩集。各作品に作者自身による解説を付す。
イギリスの著名な文化人・芸術家が集い住むブルームズベリー。その中心的存在だったアーサーと愛人ベリル。ふたりのあいだに割って入るかたちとなったアリスンは、排他的な住人たちの徹底的な拒絶に会い、さらに妻同然だったベリルの狂的なまでの嫉妬に苦しめられることとなる。ポストにそっと投げ入れられる「恋」のひと文字を信じて、共に暮らすことも愛を公にすることも禁じられたまま、四十年近くにわたって想いを貫いたひとりの女性の、静かな告白が心を打つ。『源氏物語』の英訳で知られる東洋学者アーサー・ウェーリーとの秘められた愛の記録。
大正11年、西山少年は、新設校・大阪府立第13中学校(現在の豊中高校)に入学する。これは、子供から青年への5年間ー旧制中学の日々を、驚くべき克明さと軽妙な筆致で活写した記録である。大正デモクラシーの余韻漂う大正末期の少年の心の成長と当時の中学教育の実像を再現した自伝であるとともに、日本のモダーン文化生誕の現場を生きた証言として好個の歴史読物である。自筆挿画多数。81歳の京大名誉教授がユーモラスな挿画とともに書き下ろした克明な自伝。
16年間におよぶ闘病生活を71首の短歌をちりばめて綴った愛と感動の遺作。
日本一の〈音〉と称される伝説的ジャズ喫茶店主のこだわり、情念、そして矜持。