明治38年、井上清少年は札幌時計台の前にたって将来、この時計のきかいをいじれるようになりたいと夢見ていました。時計職人になった井上少年は、いろいろな店で時計のべんきょうをして、ついに“時計台のお医者さん”になりました。時代が変わり、まちがかわっても、何十年にわたって時計台を守ってきた井上さん親子と札幌時計台の物語。
徳子が七十を迎えたときから、その死は覚悟していた。予想外だったのは、喪失感と名づけられるものが、日がたつにつれ、さまざまに形を変え、皮膚をくぐり抜けて肉へ、肉から骨へと浸透してくることだった。家族の死の淋しさに耐えきれず、別れた男と一夜をともにしてしまう水穂。その傷ついた心を救うのは…。著者の最長編、愛の傑作。
天災とも称される伝説の巨神『シン』。心臓部にあるという魔石『時の巨神将』を目指す勇者は、一瞬のスキから巨神の体内へと取り込まれてしまう。目覚めた勇者は記憶を失い、精霊の加護もなくなっていた。そこに現れたのは、杭が胸を貫き、いつからここにいるのかも分からない、銀時計を持った少女・アイア。二人は勇者の記憶と出口を見つけるため、巨人の心臓部へと向かう。罠で溢れたダンジョンを進む中、勇者が次の部屋への扉を開くと、突如、何者かに背中を押され、奈落の底へと真っ逆さまに落ちていってしまいー。「悪いけど、これでおしまいです。さよなら、勇者様ー」
世の中が前より一層よく見えるようになったー。がんを患いながらも、飽くなき好奇心で精力的な取材を続けるジャーナリスト、立花隆。七十四歳を迎えたいま、氏は震災後の日本について何を思うか?人気連載「文藝春秋」の巻頭随筆全三十九話が一冊に!
現在の日本人の時間感覚は、明治6年、明治新政府が太陰暦から太陽暦への改暦を実施したことにより新たに作られてきた。それは、日本における時計の歴史、さらには明治5年以来の日本の鉄道発展の歴史にぴったり寄り添うように重なっている、本書は、世界一正確だといわれる日本の鉄道の定時運行確保の歩みを、明治初年以来の「鉄道時計」発達の歴史を中心にたどる。
その時計台にはいくつものうわさがあった。入リ口の扉から入る人はいても、そこから出る人を見ることはない。深夜三時にひとりでくると、池のペガサス像が翼をはばたかせる。時計台の先端に白フクロウがとまっているのを見た者は…時をこえた少年の日の友情を描いた幻想譚。小学校高学年から。
赤ちゃんのひどい寝ぐずりや夜泣きの原因には諸説があるが、著者は長年の臨床経験から以下のように想定している。それは「誕生直後は『超日リズム』で生活していた赤ちゃんが、乳児期になり『概日リズム』を身につけるときに、自身の体内時計と社会活動のリズムとの間でずれが生じることで、睡眠障害や不機嫌さを起こす」というものである。この状態は赤ちゃんが“時差ぼけ”を起こしているようなもので、心身に様々な影響が出ることを意味する。ヒトの体内時計は生後一歳半から二歳にはほぼ完成し、生涯にわたり健康に強い影響をもたらす。本書では、体内時計の知識、睡眠障害と発達障害との関連性、睡眠治療の検証などを提示する。
和時計や茶運び人形など、機巧(からくり)の製作図面と動作の解説書が掲載されている、寛政八年に細川半蔵がまとめた「機巧圖彙」の現代語版。
同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。
爪切りひとつで、世界は大きくその姿を変える。眼鏡、ジダンの足さばき、世田谷線の踏切…愛はまっすぐ五十五篇。