勧工場は明治一一年に設立された東京府営の大型小売業・共同店舗が第一号である。明治一〇年第一回内国勧業博覧会が開催され、その売れ残り商品を東京府が展示販売したのが勧工場物品陳列所である。同一三年民営化、また多くの勧工場が設立され、明治二〇〜三〇年代に繁栄し商品の陳列方式、土足のまま店舗に入る方式、正価販売方式などで都市住民の人気を集め、明治の都市文化に大きな影響を与えた。しかし呉服店が百貨店へ転換し消費者を吸引したため勧工場は急速に衰退した。本書は、その勧工場について、正確な実態を総合的に分析したものである。
神算、奇謀ー東条城の密室で正儀が案出する妙計の数々、巨万の富に物言わす商人唐土屋の協力、神出鬼没の八忍衆。驕慢あくなき高師直と副将軍直義のあつれき等、才筆いよいよ冴えて迫力満点。名匠鷲尾雨工が、動乱の南北朝時代をダイナミックに描き切った傑作歴史絵巻。
明の嘉靖二十七年、寧台の村落を焚掠した倭寇は官軍と対峙すると、得意の戦法『胡蝶の陣』をもって戦ったという。父母を殺され一夜にして孤児となった小地主の伜・陳可願の目に指揮者が揮う白い扇が焼きついた。復讐を誓う陳可願の積怨はやがて、倭寇対策に手を焼く総督胡宗憲にある謀略を献策して成功する。が意外な事実が晩年に判明して…。表題作ほか悠久の歴史の壁に埋もれた人間ドラマを描く珠玉集。
島原の乱は本当に天主教徒の反乱だったのか?幡随院長兵衛殺害の真相は?油井正雪らは幕府転覆を図っていたのか?騒乱の徳川初世、数々の大事件に翻弄されつつ、頑愚なまでに素朴な心を持ち続けた町奴・夢の市郎兵衛。公儀の非情さに打ちのめされた彼が渦中で見た真実とはー!正史『徳川実紀』に隠された矛盾へ、大胆な新説で迫る刮目の傑作歴史長編。
大江小説は“歴史”をどう認識しているのか?そもそも“歴史”を認識するとはどのようなことなのか?いま最も注目される文芸評論家の傑作評論。
天正五年、十四歳の咲姫は、甲斐の太守武田勝頼に輿入れした。織田・徳川連合軍に大敗した武田は、甲相同盟の強化を計る。だが、やがて咲姫の兄・北条氏政が、勝頼との同盟を反古にし、織田と同盟を結んだ。木曾義昌の謀叛、さらには武田一門筆頭の穴山梅雪の逆心と、名門武田氏は滅びの道を辿るが…。悲運の武将・武田勝頼を敬愛し、殉じた女の生涯を活写。
邪恋に狂って盟約をやぶり、寝返って足利方へ加担する赤松則祐。ために又も京都を捨て再挙をはかる正儀の孤忠と苦悶。直冬と倫姫と敷妙と、一万の援軍を乗せた唐土屋の大船団は一体どこへ。第2回直木賞受賞作品。
『高瀬舟』『興津弥五右衛門の遺書』『佐橋甚五郎』と史実とのかかわりを、豊富な資料と史跡踏査に基づいて説き明かした、著者渾身の鴎外研究書。
唯一の支柱と頼る准皇親房卿の薨去にあって彫心鏤骨の工作も空しく、悲境のどん底になお南北朝合一をめざし、倦まずめぐらす正儀の秘謀。自責悶々、乱心狂気する足利尊氏。凄愴乱離の大団円。第2回直木賞受賞作品。
本邦初のドイツ歴史小説論。十九世紀初頭の歴史小説の成立から、シュティフター、マイヤー、フォンターネ、ラーベ、ブレヒト…とつづく作品群を解説した。さらにバルザック級と評されるアレクシスの祖国小説の再評価、デーブリーンがスパルタクス団の一揆の挫折を壮大なスケールで描いた「ドイツ革命」の小説を紹介している。
本書は、愛知工業大学の「ものづくり文化」という複合科目の講義のために、基本的な考え方を確認するためのものである。
織田信長が天下統一に向け邁進し始めた頃、能登の長谷川久六(等伯)は京を目指した。絵師として大望を抱く彼は、当時、画業隆盛を誇る狩野永徳に競争心を持つ。千宗易や前内大臣九条稙通らの後楯を得て、画技に磨きをかける久六。やがて、長男の久蔵も天稟の画才を発揮しだした。久六父子の台頭に永徳の異母弟は、一門の凋落を予見、どす黒い陰謀をめぐらす。
明智光秀の謀叛により信長が憤死。狩野一門総力で描く安土城の障屏絵は灰燼に帰した。父等伯を凌駕するほどに成長した久蔵に較べ、永徳の嫡男・光信は、未だ一門を統べる器にはない。実力拮抗する長谷川派と狩野派だが、天下人となった秀吉は、大阪城、聚楽第の障屏絵を永徳に命じた。無念の等伯は己の夢を久蔵に託すが、またもや狩野の意をくむ魔手が…。