アルヘンタの芸術(22CD)
スペインの指揮者、アタウルフォ・アルヘンタのボックス・セットがイギリスのスクリベンダムから登場。アルヘンタといえば、その実力にシューリヒトとアンセルメが惚れ込み、さらにうるさ型のチェリビダッケまで褒めていたというほどの人物ですが、その生涯は44年という短いもので、遺された録音もあまり多くありません。
今回のセットには、アルヘンタの珍しい音源も含まれているのが朗報で、ハイドン交響曲第92番『オックスフォード』、バッハのブランデンブルク協奏曲第4番、アルベニス『イベリア』組曲をスイス・ロマンド管弦楽団とのライヴ録音で聴くことができます。また、有名な『ファウスト交響曲』も、バリバリのステレオ状態で収録されるなど、アルヘンタに関心のある方には見逃せない内容となっています。
ボックス・デザインも秀逸で、昔のスペイン国旗よろしく、黄金を象徴する黄色と、血を象徴する赤、ヨハネの鷲を象徴する黒という配色に加え、20世紀スペインの激動ぶりを想起させるデザインの性格もあって、アルヘンタへのオマージュにふさわしい雰囲気を醸し出しています。
アルヘンタと音
アルヘンタはスペイン内戦中に、友人の運営する小さなラジオ局でピアノを弾いたり、ときには歌ったりして早くから放送と関わっており、反乱軍に徴兵された際にもモールス信号など通信技術を勉強して通信部隊に配属されるなど、通信や音に関する技術にはこだわりがあったようです。ちなみに軍務に就いて1年後には、政府軍側の占拠するマドリードで暮らしていたフィアンセに対して、ベルギー経由で検閲を回避した手紙で連絡をとり、セゴビアのミゲル教会で結婚式を挙げています。アルヘンタ、豪快です。
第2次大戦の際には、スペインが中立から枢軸側に転じたのち、ドイツに行き、シューリヒトから教えを受けて本格的に指揮者に転身、ドイツ各地の放送局のオーケストラを指揮する機会にも恵まれ、音に関する知識と経験を深めてもいます。
1943年にスペインが連合国側にも協力するようになるとドイツを去らざるを得なくなりますが、帰国後は経験を生かしてさっそく放送オーケストラを立ち上げたりもしていました。
アルヘンタとレコーディング
1958年1月に44歳で突然死したアルヘンタの人生は短いものでしたが、若くして人気指揮者となっていたため、実用化されて間もないステレオ方式によるセッション録音の対象アーティストになっていたのは幸いでした。
特にデッカでステレオ録音されたものは元々のクオリティが高く、1955年の『ファウスト交響曲』など、ステレオ最初期のものでありながら、生々しくよく分離した迫力サウンドを楽しむことができます。
アルヘンタは地元でスペイン国立管弦楽団などと録音をおこなう際には、スペイン・コロンビアと契約していましたが、当時のスペイン・コロンビアはデッカと提携しており、デッカのスタッフと機材がスペインまで移動してレコーディングをおこなうことも珍しくなく、そのため、アルヘンタのスペイン物音源には、鮮明なサウンドのものが数多く存在します。
また、フランスで活動することも多かったアルヘンタは、フランスの会員制レーベル「ル・クラブ・フランセ・デュ・ディスク」でもアルバムを制作。パリの音楽家たちによって編成されたレコーディング専用オーケストラ「チェント・ソーリ管弦楽団」を指揮したシューベルトの『グレート』をステレオで録音するなどしていました。
アルヘンタは音にこだわりがあったせいか、モノラルで制作されたセッション録音のクオリティも非常に高く、各楽器のソノリティが十分に保たれたサウンドは往年のオーケストラの個性的な響きを伝えてくれるという意味でもたいへん貴重です。デッカffrr方式の優秀さは特に印象的ですが、「ル・クラブ・フランセ・デュ・ディスク」もモノラル録音の音質には素晴らしいものがあります。
レコード会社がセッションを組んでおこなった一連のレコーディングのほか、アルヘンタには少なからぬライヴ・レコーディング、放送用レコーディングも遺されています。それらはすべてモノラル録音で、マイクロフォン設置の制約や、客席吸音効果などから、セッション録音に較べれば音質そのものは落ちますが、1950年代という時代を考慮すれば、恵まれたものが多いとも言えますし、なにより、アルヘンタの人気を支えた実演
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