本書は、文化史・社会史の観点から帝国主義研究を一新して今日もっとも注目されるイギリス帝国史家によるサイードのオリエンタリズム論に対する体系的な批判である。著者は、まず歴史と理論の面からサイードとサイード以後のこの論争を批判的に検討し、次いで、文化史の素材としてイギリスを中心とした絵画、建築、デザイン、音楽、演劇を選んで、順次検討している。文学以外の諸芸術や民衆文化を取り込む著者は、サイードの文学・思想やエリート文化への偏重、西洋と東洋の二項対立的な「他者性」の理論に代わる、東西間の「文化的相互参照」の理論を提唱している。とりわけ「エリートのオリエンタリズム」と区別された「民衆のオリエンタリズム」の位相では、積極的な意味での東西の折衷的な文化が求められたこと、帝国主義の最盛期ですら東洋への敬意が示され、東洋から諸芸術の着想を得ていたことを明らかにしている。
「自然との共生」は今日すでにイデオロギー化しつつある。本書は自然の概念を「外なる自然」のみならず、感情や衝動などのわれわれの「内なる自然」とも解し、西洋近代の美学芸術理論のうちに、人間の自然支配への反省に基づく内外の自然との和解の理念を探ろうとしたものである。自然との共生のルーツともいうべきこの思想は、カント、シラー、アドルノなどの美学芸術理論のうちにすでに含まれていることを論証する。
伝統を継承し、新しい創造を続けてきた京都。それは複合文化都市であり、歴史と文化の豊かな集積の地でもある。そこにはさまざまな生活の知恵と日本独自の文化がいまも保持されている。京都の歴史的地域的特性を探ることは、ひとり京都にとってだけでなく、ひろく日本の歴史と文化がどうあるべきかを問うことであり、そこに京都学を学ぶ究極の意義がある。1200年の時を超え、いくたの消長を繰りかえしながら生き続けてきた都市、京都。本書では、その辿ってきた歴史と地域的特性を探る。
中世から江戸時代までの各種史料を解読するための分かりやすい入門書。古文書のほか、掛軸・碑文・絵図・地図をも取り上げた。旧来の無味乾燥な史料演習テキストとは異なり、懇切な手ほどきによって読み方を学びつつ、そこから読みとれる内容や最新の研究状況にも導いた。各節、各章が読み物としても興味深い独立した内容をもつ。史料の調査・整理法、修復・保管技術についても1章を設けた。
北海道美唄市。閉山となった炭鉱の学校跡地に、まったく新しい芸術空間が生まれつつある。同市出身の世界的彫刻家・安田侃が目指すのは、時空を超えた自然と人と彫刻の融合。アートによる地域再生の現場を、写真家・村井修の写真を中心に初めてまとめた。村野藤吾賞受賞。
アメリカで定番の教養辞典の翻訳版。“これだけは知っておきたい知識・常識”が1冊にまとめられている。一般教養が身につくだけでなく、英語圏での常識のあらましも知ることができる。文化的な常識を網羅するために、歴史、芸術、科学技術など、幅広い分野ごとに五十音順に配列している。
ラファエル前派→モロー→象徴派という芸術の流れを正しく捉えた絵画史。19世紀末、画家、詩人をはじめ芸術パトロン、女優、画商などおよそ600人が織りなす「世紀末の夢」を自在に見透かしその輪郭をあざやかな手ぎわで描き出す。
これ一冊で写真の基礎のすべてがわかる。カメラの構造、レンズ、フィルム、ライト、スタジオ、暗室、薬品、現像、プリントなどの基礎知識から、写真絵本の編集、保存・整理や展示の方法まで。これから写真を本格的に始めようとしている人のための完全入門書。
東北は広大な「ボカシの地帯」であった。アジアの北や西や南から、いくつもの見えない道を伝わって様々な文化が東北に流れ込み、根を降ろした。長く「辺境」とされてきた地域からいま新たな学問が世界に向けてはばたこうとしている。
医学芸術社NCブックス『疾患理解とケアプランのための看護過程セミナー』で3分冊になっていたものを1本化。3冊に収録されていた30疾患に、さらに8疾患を加え、代表的な疾患を完全カバー。看護のベテランによって、看護学生のニーズを踏まえて書かれた本書は、基本を押さえ、基礎力を身につけるのにうってつけの1冊。
芸術にルールはなくても、まずは知りたいその基本。静物、花、自画像をモチーフに、写生の基礎から水干絵具、岩絵具による本画制作まで、一流作家が本書のために描きおろした14の作品を紹介し、そのすべての制作プロセスを追いながら日本画の魅力を学ぶ。
日本の原風景としての里山、地球環境時代における美術の新しい可能性、地域・世代・ジャンルの異なった人びとによる協働。越後妻有はこの国の元気と希望となった。
「宗教的」な芸術があるとするならば、その根拠と可能性はどこに見出されるのか。ティリッヒの神学および宗教哲学において、「宗教的」な芸術は「究極的関心」の理念のもとに考察され、そこでは伝統的宗教的象徴の有無よりも、“to be or not to be”という煩悶への真摯で創造的な取組みが問われる。究極的な意味と存在の経験を表す芸術が「宗教的」なのであり、また自由と運命における「無言の啓示者」なのである。
初期から近年までの世界中の映画を視野におさめ、映画の技法・スタイルを中心に、製作・興行、形式・ジャンル、批評・歴史にわたる映画芸術のすべてを、多数の図版とともに体系的に解説したアメリカで最も定評ある映画入門、待望の邦訳。
エッシャー、ダリ、北岡明佳、福田繁雄など、古今東西の作家の傑作を厳選した摩訶不思議な世界を大公開。オプティカル・イリュージョン・アート、錯視図形、トロンプ・ルイユ、アナモルフォーシス、組み込み絵画といった人間の視覚を見事にあざむくアートの競演をご堪能あれ。
伝説の作家の知られざる足あと。醇乎たる檀文学のすべて。永遠の旅情を生きる“漂泊者”の生涯と作品。没後三十二年、初の本格的評伝。