人間の生は合理的な認識よりも反論理的なパトスに支配されている。生命と環境の相互関係をパトスの様相のうちに求め、個人の心身と病理から社会の臨床へいたる壮大な“医学的人間学”の全貌。
小説が小説としてリアリティを獲得するためのよそおいを、表現機構としてあらためて問い直し、各小説の表現を詳細に読み解きながら、日本の近代小説の特質とその変遷を鮮やかに描き出す。
ベルティーニがケルン放送響と残した、高い評価を得たマーラー交響曲全集。オーケストラを完全掌握し、最大限の表現をなしている。声楽陣の能力の高さはもちろん、ソリストたちも特筆すべき素晴らしさだ。
『源氏物語』の謎と魅力を明かすものは、怨みと祈り、巫女性と遊女性、恋と道心など、「引き裂かれたもの」のきらめきを発見することだ-。古代的豊饒を担い現代に語りかけ続ける物語としての『源氏物語』の心性に憑き自己の感性を凝らして、作品に織り成された両義の糸を手繰り寄せようと試みた。精錬の文章による彫心の意欲的研究。
金属焼付ポーセレン・クラウンあるいはブリッジで、個々の患者の口腔と調和する特徴を表現することは、ポーセレン技工の理論的システム化への努力とは矛盾しない。Ernst A.Hegenbarthの創造的審美表現法は、この個性表現と、歯科医師にも歯科技工士にも日常的に実践の可能な理論的システムを両立させた。
古今集によって開花した表現とはー。個々の歌に対する精緻な読み重ねにより、導き出される古今集以前〜以後の和歌表現の流れ、構築される表現体系・表現の史的展開。心象と物象が溶け合う歌の中、漢詩文・万葉集より受け継がれた表現、古今集にて新たに生み出され、また後へ続く表現が見えたとき「古今集」歌の本質が明らかになる。
日本語の音韻・語彙・文法論の集成。「国語動詞の一分類」(『言語研究』1950年)、「不変化助動詞の本質」(『国語と国文学』1953年)などの論文と『日本語セミナー2 日本語のしくみ』(1982年刊)、『日本語の特質』(1981年刊)を収録。
新書版の『日本語』(1957年刊:のち新版として1988年刊)と、『日本語セミナー5 日本語のあゆみ』(1983年刊)を収録。あらゆる角度から光をあて、日本語を具体的に解明する。
従来、方言研究は、特に記述または記述的研究は、語詞・語彙の流れや発音の異相には敏感であったが、ともすれば表面の現象観察にとどまりがちであった。方言事象の変化事実を指摘しても、なぜそうなのか、そうなったのかについては無頓着であることが少なくなかった。方言事象の分布を問題にしたとしても、分布図だけでは読みきれない世界がある。本書では、この、地域の襞ひだに残る、見落とされた世界の史的残像を掘りおこして、生活の変遷と共に生きた、かつての方言の息づかいに思いを傾けたものである。