目には見えないが、確かに存在している香り。詩人たちはそれをどのように表現してきたのか。中国古典における芳香表現のもつ意味とは何か。三国志の時代は激動の時代であったが、香り・匂いの表現においても大きな転換をなした。本書は、先秦漢魏晋南北朝期の詩文、とりわけ三国西晋期の詩歌における嗅覚の表現を通して作品の内側に迫る独創的な研究業績である。第1部は、先秦から南北朝期の詩歌辞賦作品における、芳香と女性の表現の系譜を辿る。第第2部では、後漢末の建安年間から西晋王朝による再統一後までの作品に注目し、外来した地中海原産の植物「迷迭」など多種多量の香料に包まれた詩人たちが、匂いそれ自体を表現し始める様子を描く。3部は作品の文化的側面に焦点を当て、伝統的な香料である蘇合香を手がかりに悪臭と霊力の謎に迫りつつ、さらには『三国志』周瑜をめぐる表現にも言及する。中国文学のみならず、日本文学研究にも多くの示唆を与えうる貴重な成果。
日本語接触問題の解決をめざす国際共著。依頼を談話レベルにおけるひとつのジャンルとして捉え、日本語・韓国語・中国語で異なる特徴を持つことを、理論的・実証的に明らかにした。談話は、社会文化・意識態度・談話内容・談話表現の4層からなるとする同時結節モデルに立ち、各層別の記述を深めるとともに、4層の統合的展開として談話レベルのジャンル表現が成立することを示した。
沖縄独特の抒情歌である琉歌の表現を、日本の和歌や沖縄の古謡・オモロと比較する。膨大な歌数を対象にした調査を踏まえ、琉歌はオモロから発生したという定説に対し、和歌表現の強い影響下で成立した可能性を指摘する。琉歌成立の謎にせまる。
整数論における金字塔としての岩澤理論。フェルマーの最終定理の解決に寄与した後も目覚ましく進展している。「イデアル類群の円分岩澤理論」を論じた上巻に対し、下巻では、「p進表現の円分岩澤理論」「ガロワ変形の岩澤理論」を扱う。上巻とのつながりを考慮し、「楕円曲線の岩澤理論の紹介」を加え、またいまだ和書のない「肥田理論」などの解説ほか、他書にない貴重な知識を提供する。
『源氏物語』の作中人物は、どのように考え、話し、行動しているのか。人生儀礼、出産、衣装、食はどのように描かれているのか。『源氏物語』の表現を丹念に追いつつ、他の平安時代の作品とも比較して考察する。
本書では、リチャード・ロジャース、ノーマン・フォスター、ニコラス・グリムショウ、マイケル・ホプキンスといった巨匠だけでなく、トーマス・ヘルツォーク、フォン・ゲルカン・マルク、デザイン・アンテナ、長谷川逸子といった新しい世代を含め、革新的なデザインに挑戦する建築家たちを一堂に集め、精巧でエキサイティングな最近作を詳細に紹介する。
この本は、知識に基づくデザインシステムの基礎・概念・技術・実現方法について述べるとともに、デザインシステムの新しい方向性を唱道したり展開したりするものである。
本書の前半では2つの公理の導入から、それらによる設計の定量的評価の方法を解説し、良い設計とは何かを探求する。後半では機械、生産システムから国家的な組織に至るまで様々な設計のケーススタディをあげ、設計公理の有用性を立証している。また最後に、設計公理とコンピュータを組み合わせた「設計思考機械」の概念を述べ、その可能性を解説している。
本書は『精神科ケースライブラリー』の第1巻で、「精神分裂病と類縁疾患」の症例集である。この巻に収められている精神分裂病は、精神疾患の中核をなすいわゆる内因性(機能性)精神疾患で、一般人口における罹病危険率は0.8%といわれており、わが国の精神科病院の入院患者のおよそ6割を占める難病である。この疾患の概念の変遷の歴史や診断、治療、処遇については、序章で詳しい解説があるが、この病気の特徴をなすのは症状や経過の多様性にある。同じ診断名であっても、症状の組み合わせや予後はひとりひとり異なり、心理的・環境的な要因や治療によって微妙に変化する。そのような意味で、多くの治療者によって記述された数多くの精神分裂病の症例を知ることは、毎日の臨床に大きな幅と広がりをもたらすものである。