名主の書役として暮らすお麓の閑居へ、能天気なお菅と、派手好きなお修が転がり込んできた。ふたりとも、いわば幼馴染である。お麓は歌を詠みながら安穏の余生を送ろうとしていたのだがー。ある日、お菅が空地で倒れた女と声が出せない少女を見つけてきた。厄介事である。お麓にとって悪夢のような日々が始まった。直木賞作家が描く痛快時代小説。
「雪の形をどうしても確かめたくー」下総古河藩の物書見習・小松尚七は、学問への情熱を買われ御目見以下の身分から藩主の若君の御学問相手となった。尚七を取り立てた重臣・鷹見忠常とともに嬉々として蘭学者たちと交流し、様々な雪の結晶を記録していく尚七。だが、やがて忠常が蘭学を政に利用していることに気付き…。蘭学を通して尚七が見た世界とはー。
お店の守り神である木彫りの猫がなくなり、その行方を捜す「猫神さま」(西條奈加)、長屋で一番偉い猫の“サバ”が、夫婦の揉め事を解決する「包丁騒動」(田牧大和)、臆病な火消しの男へ按摩が与えた猫頭巾に込められた恐るべき謎「だるま猫」(宮部みゆき)など、愛らしくも摩訶不思議な存在である江戸の猫にまつわる短編六作を収録。令和を代表する女性時代作家の共演による珠玉のアンソロジー。
巣鴨で六代続く糸問屋の嶋屋。主人の徳兵衛は、三十三年間の仕事一筋の生活に終止符を打ち、還暦を機に隠居することにした。人生がすごろくならこれは上がりだ。だが、孫の千代太が住処にきて静かな生活は一変。犬や猫を拾っては連れてくる孫に「そのやさしさを人のために使ってみてはどうだ」と諭した徳兵衛は、千代太の仲間に囲まれ、賑やかな日々を送ることになる。第二の人生の上がりはいったいどこに?心揺さぶる時代小説
眠れない夜。久しぶりの旅行。のんびりしたい休日…どんな時も寄り添ってくれるもの。それは、一編の物語。スリリングな大人の駆け引きにはらはらしたり、初恋に胸をときめかせたり、家族や友達との特別な絆に涙したり。2010年代、「小説すばる」に掲載された様々なジャンルーミステリから時代小説までーの短編作品から厳選。人気作家たちが紡ぐ宝物のような11編で、最高の読書時間を!
神田明神の裏参道の石段を後ろ向きに降りて足を滑らせた老人には、他人には言えない秘密があったー。宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズの最新作「氏子冥利」など、練達のベテランから新進気鋭の若手まで5人が、“江戸の祭り”をテーマに競作した出色のアンソロジー。時代小説の粋を味わえること請け合いの一冊!
元寇、比叡山、大奥…歴史の底から「屍」が這い寄る。日本史の深淵を覗く驚異の小説集。全編書き下ろし。
因業な金貸し婆・お吟のもとへ押しかけ、金貸し業の手伝いをする浅吉。新しい発想で次々と借金をきれいにし、貧乏人たちを助ける彼には、実は秘密があった。大金を得るべく浅吉が仕掛ける真の目的はいったい…。日本ファンタジーノベル大賞作家が江戸を舞台に描いた痛快時代エンターテインメント小説。文庫だけのオリジナル短編「勘左のひとり言」収録。
掏摸やかっぱらいで食いつなぐ暮らしを改めて、まっとうな商売を始めた、勝平をはじめとする十五人の孤児たち。彼らは周囲の小さな事件を解決しながら、自分たちの居場所を拓こうとする。厳しくも温かい長谷部家の人々や、口の悪い金貸しお吟らの助けも借りながら、子供たちは事件解決に奮闘する。笑いと涙が交錯する傑作に、特別書下ろし短編「登美の花婿」も収録。連作時代小説。
善い人ばかりが住むと評判の長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めた。実は長屋の住人は、裏稼業を持つ“悪党”たち。差配の儀右衛門は盗品を捌く窩主買い。髪結い床の半造は情報屋。唐吉、文吉兄弟は美人局。根っからの善人で人助けが生き甲斐の加助が面倒を持ち込むたびに、悪党たちは裏稼業の凄腕を活かし、しぶしぶ事の解決に手を貸すが…。人情時代小説の傑作。
お蔦さんは僕のおばあちゃんだ。もと芸者でいまでも粋なお蔦さんは、面倒くさがりなのに何かと人に頼られる人気者だ。そんな祖母と僕は神楽坂で暮らしているけれど、幼なじみが蹴とばし魔として捕まったり、ご近所衆が振り込め詐欺に遭ったり、ふたり暮らしの日々はいつも騒がしい。神楽坂界隈で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!あたたかな人情と情緒あふれる作品集。
訳ありの弥五郎は伊勢詣の世話役・御師の手代見習いとして修業中。ある日、侍に襲われる材木商・巽屋清兵衛を助けた縁で、用心棒を兼ねて清兵衛の伊勢参りに同行するはめに。「御師は盗人」と言い放つ変わり者の弥五郎だったが、伊勢を目指す人々と関わるうちに、心境に変化が。そして清兵衛の過去を知った弥五郎は…。時代小説界の気鋭が描く笑いと涙の道中記。
町与力の高安門佑は、新任の北町奉行・遠山景元の片腕として市井の取締りに励む毎日だ。その最中、元遊女のお卯乃を屋敷に引き取る。お卯乃との生活に安らぎを覚える門佑だったが、老中・水野忠邦が推進する天保の改革は、江戸を蝕み始めていた。改革に反対する遠山らと水野の鬩ぎ合いが苛烈を増す中、門佑は己の正義を貫こうとするがー。爽やかな傑作時代小説。第18回中山義秀文学賞受賞作。
紺屋の女将・紫屋環は、三ケ月前に亭主が殺された事件の真相を知るべく、大店の東雲屋を探っていた。環は、同じく東雲屋ゆかりの者に恨みを持つ女たちと出会い、四人で協力して東雲屋に挑むことに。しかし、それぞれの愛憎や思惑、環に惚れる同心、藍の産地である阿波藩のお家騒動なども絡み、事件は意外な様相を呈していく…。二転三転する展開と謎。気鋭が描く、痛快さと人情味に溢れた長編時代小説。
長唄の師匠であるお蝶は三味線の腕前と美声で気性も粋な弁天との評判。お蝶の兄嫁の沙十はたおやかな色白美人で観音のたたずまい。人呼んで“弁天観音”美人姉妹は、頼まれ事を抜群の機知で解決していく。にぎやかな日々の裏で、お蝶を狙う影が大きく動き始める。凛とした痛快時代小説。
友だちになった小鬼から、過去世を見せられた少女は、心に“鬼の芽”を生じさせてしまった。小鬼は彼女を宿業から解き放つため、様々な時代に現れる“鬼の芽”-酒浸りで寝たきりの父のために奉公先で耐える少年、好きな人を殺した男を側仕えにして苛めぬく姫君、行商をしながら長屋で一人暮らす老婆、凶作が続く村で愛娘を捨てろと言われ憤る農夫、田舎から出て姉とともに色街で暮らす少女ーを集める千年の旅を始めた。精緻な筆致で紡がれる人と鬼の物語。
周囲から「善人長屋」と呼ばれる千七長屋。差配も店子も表向きは堅気のお人好し揃いだが、実は裏稼業を営む悪党だらけ。ある日、「閻魔組」と名乗る三人組によって裏社会の頭衆が次々に襲われ、惨殺される事件が発生する。天誅を気取る「閻魔組」の暗躍は、他人事として見過ごせない。長屋を探る同心の目を潜り、裏稼業の技を尽くした探索は奴らの正体を暴けるか。人情溢れる時代小説。
中学三年生の滝本望は祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。芸者時代の名前でお蔦さんと呼ばれる祖母は、粋で気が強く、ご近所衆から頼られる人気者だ。後輩の有斗が望の幼なじみとともに滝本家へ遊びに訪れた夜、息子ひとり残して有斗の家族は姿を消していたー。神楽坂で起きた事件にお蔦さんが立ち上がる!粋と人情、望が作る美味しい料理が堪能できるシリーズ第二弾。
騙されて江戸に来た13歳の少女・お末の奉公先「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの三流店だった。無気力な周囲をよそに、客を喜ばせたい一心で働くお末。名店と呼ばれた昔を取り戻すため、志を同じくする若旦那と奮闘が始まる。粋なもてなしが通人の噂になる頃、店の秘事が明るみに。混乱の中、八年に一度だけ咲く桜が、すべての想いを受け止め花開くー。美味絶佳の人情時代小説。
大きな橋から落下し、気づくと三途の川に辿り着いていた小学六年生の叶人は、事故か自殺か、それとも殺されたのか死因がわからず、そこで足留めに。やがて三途の渡し守で江戸時代の男と思しき十蔵と虎之助を手伝い、死者を無事に黄泉の国へ送り出すための破天荒な仕事をすることになる。それは叶人の行く末を左右する運命的なミッションとなった。