街の雑踏のなかでどこか遠方の地を想う。大都市東京を舞台に描かれる、死と孤独と再生の物語。
二匹の猫の世話を条件に叔母のマンションに引っ越したぼくは、ある雨の夜、部屋で女性の声を聞いた。「わたしは幽霊です」と言う彼女は、自分を殺した人を捜してほしいという。戸惑いながらも、真相究明に乗り出したぼくは、いつしか、雨の日にしか現れない彼女に恋をしていた。そして、すべての謎が明かされたときー奇跡の恋を描いた感動のラブストーリー『雨恋』が、装いも新たに!
戦後まもなくのこと。生活を支える為に、進駐軍の英国軍人・フランシスのもとで身の回りの世話をすることになった陽介。メイド服を与えられ、それを着て意地悪な主人に仕える日々がはじまったが、彼とともに過ごすうちに次第に惹かれていく。しかし、陽介がここに連れてこられたのは、フランシスを陥れるための罠だったのだ。離れ離れになったフランシスの恋人と陽介が似ているからー。それを知りながらも陽介は身代わりとして彼に抱かれたいと思い…。優しい雨は、密やかな恋を包み込むー。この片想いの行方は…。
あの雨の日を忘れられない。入谷友紀の自慢の店『水華茶荘』は中国茶専門のカフェだ。客足は少ないけれど、好きなものばかりを揃えた店は居心地がいい。ある雨の日、客もいない店でお気に入りの中国茶を淹れたところにひとりの客が訪れた。精悍な顔立ちのスーツを着た青年、長谷部だ。どうやら長谷部は入谷のことを知っているようで…それから、雨の日になると現れる長谷部と親しくなるうちに、入谷は自分の気持ちが友情ではないことに気付きはじめてー恋に臆病なふたりの不器用な恋の物語。
泥鰌売りをして細々と独り身の生計を立てている岩三郎は、篠突く雨に打たれて長屋の木戸門にもたれかかる若い女を助ける。だが、事情を問う彼にお菊と名乗る女は、何も聞かずここに置いてほしいと懇願するばかり。やがて二人の暮らしぶりが長屋の噂になり始めたころ、岩三郎は思わぬ事実を知らされるー。傑作時代小説、シリーズ第十三集。
町に初雪が降った日、廃墟の塔で男が殺害された。雪の上に残された足跡は、塔に向かう一筋だけ。殺されたのは、発見者の高校生・祐今の父親だった。8年前に同じ塔で、離婚した妻を殺した疑いを持たれ、失踪していた。母も父も失った祐今を案じ、親友の烏兎と獅子丸は犯人を探し始める。そんな彼らをあざ笑うように、町では次の悲劇が起こりー。衝撃の真相が待ち受ける、青春本格ミステリ。
雪が降り、風が吹き、雨が打つから人生は輝く。読売新聞連載の人気エッセイ「仙台だより」待望の単行本化。54歳で東北大学大学院入学、同大相撲部監督就任、大病に倒れるも克服、そして3.11-。
京都に出奔した弱小武家茶道「坂東巴流」家元Jr.の友衛遊馬。お茶が嫌いなはずだったのに、宗家巴流の先生・志乃の家に寄宿し、お茶菓子作りが趣味の坊主・不穏や公家装束を着こなす高校教師・今出川幸麿など、怪しげな茶人たちとの交流は増すばかり。そうこうするうち、宗家巴流の後継問題に、あれよあれよと巻き込まれ…。大好評青春娯楽小説、感涙の大団円へ。
沈黙が砂のように私を埋めつくすだろうースペイン山奥の廃村で、降りつもる死の予兆を前に男は独り身をひそめる。一人また一人と去り行く村人たち、朽ちゆく家屋、そしてあらゆるものの喪失が、圧倒的な孤独と閉塞の詩情を描き出し、「奇蹟的な美しさ」と評された表題作に加え、地方を舞台に忘れ去られた者たちの哀しみを描いた短篇「遮断機のない踏切」「不滅の小説」の訳し下し二篇を収録した文庫オリジナル。
行助は美味しいたいやき屋を一人で経営するこよみと出会い、親しくなる。ある朝こよみは交通事故の巻き添えになり、三ヵ月後意識を取り戻すと新しい記憶を留めておけなくなっていた。忘れても忘れても、二人の中には何かが育ち、二つの世界は少しずつ重なりゆく。文學界新人賞佳作に選ばれた瑞々しいデビュー作。
荒ぶる先帝の怨霊、命を賭した義兄弟の契り、帰らぬ夫を待つ妻の悲しき末路、男にとりついた蛇性の女の執念…。中国や日本の古典をさまざまに取り入れ、美しくも妖気ただよう作品に仕上げた上田秋成(一七三四ー一八〇九)の珠玉の短篇集を、厳密な本文校訂、平明な注と解説で。
日の出観光商事に勤める崎は鴬谷のラブホテル「雨月」へ突然左遷されるが、クサるわけでもなく淡々と清掃係に従事していた。社長の愛人と情事を重ねるものの、そこにも熱はない。ある日、ゴルフ場勤務時代の友人・沢口に頼まれ、風変わりな女を泊めたことから、「雨月」の禁忌が露わになりはじめ…。官能、ホラー、サスペンス!芥川賞作家が描く妖しい世界。
誰かの「特別になりたい」と思いながら、日々を過ごしていた高校生の櫂。しかし、そんな彼は突然異世界に召喚され、「慈雨の神子」としてその地に雨を降らせろと命じられてしまう。特別と言っても、こんなことを望んでいた訳じゃない!無茶な命令に混乱した櫂の元に、二人の騎士が現れる。櫂の心が揺らぐたび、甘くなだめる守護者、サイード。寡黙だが、櫂の敵を許さない近衛騎士、ダルガート。そしてどうやら、彼らが櫂に触れることと「慈雨の神子」としての役割は何やら関係しているようでー孤独な神子を揺り動かす騎士の愛情。-とめどなく降り注ぐ愛が「運命」を芽吹かせる。
白峯の御陵を訪ねた西行法師の前に崇徳院の亡霊が現れる「白峯」、学者と武士が義兄弟の盟約を結び、ある約束をかわす「菊花の約」、蘇生した僧侶が自らの数奇な体験を語る「夢応の鯉魚」、風雅を好む青年が妖しい美女に出会う「蛇性の婬」など、あの世とこの世、人間と人間でないものが交錯する、美しくも恐ろしい9つの物語。流麗な筆致でつづられた本格怪異小説を、やさしい現代語訳と丁寧な解説とともにダイジェストで読む。
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