臨時雇いとして、影でCIAの仕事に携わりつづけた一人の男が死んだ。彼の名はステディ・ヘインズ。ひっそりと生きた彼は、ひっそりと死んだ。アーリントン国立墓地で行われた葬儀に出席した会葬者は、政府からのまわし者をのぞけば、故人の息子と愛人と旧友のたった三人だけだった。だがステディの遺産は、その目立たない人生とは裏腹にCIAを震撼させた。彼は自分の関わった仕事の内容を暴露した回想録の原稿を息子に残していたのだ。CIAは回想録を握りつぶそうと動きはじめる。しかし、それを狙っているのはCIAだけではなかった。ステディの葬儀に出席した三人が馴染みの〈マックの店〉で旧交を温めた直後から、何者かが彼らの命を狙いはじめたのだ。ステディの息子で殺人課の元刑事グラニー・ヘインズは、殺人者への反撃を決意する。彼は〈マックの店〉を根拠地に仲間を集め、回想録の原稿を餌に復讐の罠を張るが…。予断を許さぬ巧みなストーリーテリングと粋な会話で並ぶ者なきロス・トーマスの、“巨匠屈指の傑作”と評された最新作。
琉球新報短篇小説賞受賞作品所収。
わが国の経済学に大きな影響を及ぼしたアメリカ経済学。その発展に寄与したサムエルソンの経済学を中心に、現代アメリカ経済学の展開を批判的に検証。ケインズ経済学の普及と新古典派総合の隆盛、マネタリストの挑戦、「新しい古典派」の台頭とケインズ経済学の否定といった流れを総合的に把握する作業を通して、経済学とは何か、経済学的考え方とは何かを説き明かした格好の経済学案内。
冷戦型・勢力均衡型の枠組みを超える政治学、国際関係論は何か。古典的自由主義を前提する現代経済学の突破口はどこか。社会・人文科学の痛念、経済発展論の常識への根本批判。
思い出のハリウッドスターをノスタルジックなタッチで描いた久保幸造のファンタジーな世界。
冷戦体制崩壊後、今日の資本主義は新たな展開を迫られている。地球を覆う環境破壊・膨張する人口・西西問題…。各民族のもつ文化的多様性をベースに協調・共生は可能か。価値観の転換・知的枠組の再構築を考える。
「経済の論理」と「政治の都合」に揺れる“最後の巨人”。行方定まらぬ大欧州のコンパスを読む、迫真のドキュメント。
聴く者を見知らぬ光景へと誘ってやまないシューマンの音楽-。狂気の影に深く覆われた最晩年の日々を緊迫感あふれるタッチで描き出し、ピアノ曲を中心にその音楽の秘密にせまる。フランス精神分析学者による感動的なシューマン論。
本書はマカオの礎をつくりあげた歴史を概観し、そしてその都市と芸術の発展を20世紀初めまで辿るものである。
「ぼく、闇の森に行ってきたいんだけど…」ためらいがちに話す、ヨシュアの一言が始まりだった。闇の森は、ヨシュアの両親がなくなった地、そこを訪ねたいと言う。反対するカレンとゼオを尻目に、ライラはヨシュアを連れ旅に出発してしまう。だが、そんな二人を密かに見つめる瞳があった。そして、闇の森に到着したのを待ちかまえるかのように、ライラとヨシュアに襲いかかる。ヨシュアを奪われ、深手を負ったライラは、謎の麗人シャルバートの助けを借り、謎の女、アサギを追うが…。
幻影の女性をもとめ、科学読み物のライターが陥った孤独という穴。消えた自分への戦慄。ファンタジー文学の鬼才が、あえて自らの生を刻印した驚愕の虚構。