権力欲に取り憑かれ、政敵を次々と闇に葬り去るために己が手を汚してきた中大兄皇子には、生駒の地でひっそりと暮らす無垢・無欲な有間皇子の存在が許せない。皇位継承権を持つとはいえ、何の後ろ盾もない孤独な有間を中大兄は凌辱する。そして他の勢力の同情が有馬に集まることを恐れ、中大兄は、腹心・中臣鎌足と相謀り、有間抹殺へと動き出した。その生まれゆえに権力抗争に巻き込まれ、すべてを、謀殺さえも“運命”として受け入れた悲劇の皇子の物語。中大兄と鎌足の出会いを描いた「番外編」を付す。
フォークナーの南部、そして今スペンサーの南部。イタリー、カナダと生活の場を移しつつも不変の「心の領域」を求め、絶えず故郷を望む珠玉の女流短篇集。
希代の緊縛師・須山耕平は「元美人女優・若松八重子を思う存分縛れれば本望。死んでもいい」とうそぶいた。そして野望を果たすべく…。
竜憲が眠り続けて三か月の時が経った。食事も医療行為もいっさい受け付けず、ただ大輔から注がれる生命力だけで回復を待つ竜憲に、一同は歯痒い思いをするばかり。そんなある日、大道寺家に、三歳の時に人を殺した記憶が芽生えた、という少年の依頼が舞い込んだ。竜憲の代わりにと視た鴻は、単なる思い込みではないと判断する。しかし、進展を見せぬまま数日が過ぎ、やがて危機を乗り越えた竜憲が目覚めた。
ヴァーグナー家とヒトラーの親密な関係、ニュース映画のバックに流れる聞き慣れた曾祖父の音楽…不気味な疑念とともに始まったゴットフリート・ヴァーグナーの過去の探究は、やがて自身の一族からの追放という結果を招くことになった。加害者の子孫としてのアイデンティティーを問い、ホロコースト後の芸術という難題に取り組む、ドイツの「戦争責任」と絡んで一大論争を巻き起こした問題作。
開演のベルが鳴りわたり、真紅の幕が上がる。-胸躍る一瞬。夢野久作の「死後の恋」を第一夜に、ポーやローデンバック、乱歩、谷崎、百間…と、目くるめく妖かしの幻想劇が夜ごと繰りひろげられる…。
幕末日本に西欧諸科学を伝えたオランダ商館付医師シーボルトは、国禁を犯し、追放された。世に謂う“シーボルト事件”である。三十年を経て日本再訪を果たしたシーボルト、そして二人の息子たちは、精力的に日本の産物、工芸品、民族資料を収集している。彼らの“日本”コレクションは、洗練された江戸文化の輝きとともに、活き活きと暮らした人々の表情を鮮やかに捉えていた。十九世紀末の西欧社会を背景に、発信された“日本情報”とは何であったのか。ヨーロッパ社会が日本に求めたものは何であったのか。
オペラのもう一人の創造者、歌手。その中でも、美しいアリアを自ら作曲させたプリマ・ドンナたち。オペラの新たな視点を提示する画期的書全2巻、ここに完成!著者自身の作成による、世界でも類をみない、貴重なデータを多数収録。
バイロイトで常時上演される『オランダ人』以降のワーグナーの全舞台作品。
街のチンピラが京劇場で殺された。捜査にあたった北京市公安局・王警部補は古美術品の盗掘、密輸出と殺人事件との関連を追うが…。チャイニーズ・マフィアから警察幹部、さらには共産党へと真相に迫る一人の刑事が職務の狭間で懊悩する姿を描く。天安門事件を遠景に中国の闇社会が舞台のクライム・ノベル。
リズム、メロディー、ハーモニーを求めて東へ西へ。行く先々で出合う素晴らしい人々との触れ合いと、人間が誇るべき「無形文化」の行く末を考える真摯な姿勢が光る、音楽人類学者による好エッセイ。
「経済」とは、生き抜くための知恵を生みだすもの。第一章では、今から2001年4月1日に至る日本の行方について触れた。第二章と第三章では、おそらく、みなさんに見えている欧米像とは違ったアメリカとヨーロッパについて言及した。そして、さらに21世紀の世界の再編成を予測して、ある歴史の仮説を試みた。第四章では、来たるべき21世紀のわれわれ日本人の在り方を提示した。また、若い人がこれからの激動の時代をどう考えて工夫と勇気を発揮すべきか触れてみた。
熊野、満州…魂ゆさぶるどん底の原風景。