協定による「経済協力」は、日本政府の公式の見解としては、請求権の放棄とは関係が無く、何らの意味でも補償ではなかった。しかしこれに反して、韓国政府は、日本から受け取った「請求権資金」から支出するという建前で、「対日民間請求権補償法」などを制定した。協定本文によれば経済協力として供出されるものは韓国経済発展のためにしか使えないので、この建前が嘘であることは明らかだ。請求者への支払いは、1975年から77年にかけて行われたが、執行に不備があり、このような方法は受け入れがたいという批判も大きかった。2008年以降、追加的な支援措置がとられた。日本でも朝鮮半島からの引揚者に対しては、特別の法律を作って支給が行われている。
しかしこのような日韓両政府の措置は、失われたものに対する補填ではあっても、補償であるとは言えないだろう。両国は請求権の放棄だけはしておいて、互いに補償という名目ではビタ一文も動かしてはいない。だから実際にはそれぞれの国内法で行った補償なり支給というものは、それぞれの国家予算、つまりは国民の血税から出して、その国民に支払ったのだった。
補償の問題を回避して経済協力という形式で妥結したことを懸念する意見は、当時すでに提出されている。昭和四十年十二月一日、参議院日韓条約等特別委員会公聴会。
○公述人(藤島宇内君) …
それから佐藤総理の姿勢の件ですが、衆議院と参議院の特別委会、二回にわたって佐藤首相は旧条約つまり朝鮮を植民地化した数十件の条約、協定あるいは条約議定書、そういったものは対等の立場で、自由な意思で締結されたということを繰り返しおっしゃっておるわけです。しかし、これは外務省あるいは国会図書館にある資料によりますと、これは公明党あるいは社会党からも現在理事会で請求されておるようでありますが、外務省はこれをまだ特別委員会に出していないようであります。これをぜひ出していただいて、その実物について、はたしてほんとうに対等に自由な意思で締結されたかどうかということを確かめていただきたいと思います。その実物なしに断定することは、これはよくないからです。そういう断定から何が生まれるかといいますと、これはいろいろな問題がありますが、たとえば植民地支配が自由な意思で対等な条件で結ばれたということになりますと、この植民地支配というものに対して朝鮮民族が抵抗したということがどうも不当であるというふうな考え方がそこから出てきます。この考え方がこの日韓交渉の間では、日韓両政府の間で非常に問題になったというふうに聞いております。韓国政府の韓日会談白書によりますと、この点が国民感情に一番引っかかるのであるということを言っております。ですから、この点をはっきりいたしませんと、日韓友好の思想的基礎というものが確立されないのです。そういうところから出てくる結果としまして、たとえば一九一九年の三・一独立運動のために昔植民地時代に投獄された朝鮮民族というのは、これは何十万にも達するほどです。たとえば一九二〇年代初めの間島省虐殺事件というのがあります。これも総督府の資料ではっきり出ておるはずです。さらに関東大震災の虐殺という問題もあります。また戦争中の朝鮮人強制連行という問題もあります。こういったものは、すべて日本の政府の資料として出せるはずのものです。そういうものが出されないということは、つまりそういう問題についての請求権というものを全部ほおかぶりしてしまうということになるわけで、結局それは韓国の国民が日本に対して持っておる請求権というものを放棄させておいて、その上に経済協力というものをつくり上げる。で、この経済協力は、はたして韓国の国民に実際に渡るのかどうかということになりますと、これは非常に疑問があるわけです。政府の答弁にもありますように、この日韓経済協力というものは韓国国民個々に渡るのではなくて、そういう個々の犠牲者に渡るのではなくて、資材及び役務で提供されるということになるわけです。それによって一部の特定の日本の企業というものは確かにもうかるかもしれません。これはこの不況の現在非常にうれしいことかもしれませんけれども、そういうことでは、日韓友好の本質的な姿勢というものは確立されないのではないかというふうに考えるわけです。で、そういう点を具体的な資料によって確かめていただきたいというふうに思うのであります。
この指摘にあるように、文言の上では「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」した協定は、重要な問題を先送りしたし、むしろ新たな問題を作り出したとも言える。このことは、日韓基本関係条約の「〔併合条約等は〕もはや無効」という文言ともつながっている。「日韓友好の本質的な姿勢というもの」が確立されなかったことは今や明らかだ。その原因は、誰かが1965年の条約と諸協定を守らなかったからではなく、むしろ必要な見直しを回避してきた所にあるのではないかと思う。
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