「三郎、目を覚ませ!」
声の主はふしくれだった指で握りしめた一升瓶を、三郎の前にぬっと突き出した。ラベルにはかろうじて読める字で「純米 雪苺娘」とあった。
おでん(ちくわぶ入り)に合う。
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それでも卵は産まれ、雛は育ち、裏庭には二羽のニワトリの原則にはじき出されたニワトリが路上に溢れた。村人が頭を抱えるようになった頃、峠の外れにぽつんと一軒の牧場が現れた。
KFC契約牧場。手書きの表札のかかる柵の向こうに、ニワトリたちは吸い込まれるように消えてゆく。
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セカンドライフを農村で!
山村留学で元気はつらつ!
マクロビオティック&ヨガで美しく!
過疎化に悩んでいるのは、この村も同じである。
万策尽きて、最後にすがったのが闇プロレスなのであった。
効果はまだ確認できていないが、とりあえずブロッコリー畑を闊歩するニワトリの数は増えたようである。
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庚申の日に夜通し行われる興業は、代々この村の名主の分家筋の西家が音頭を取っていた。
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あまおうで思い出したが、もう引退したが、
魁皇という力士がいたっけ。
確か女子プロレスラーと結婚していたはずだ。
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そうして散る桜を浮かべた一合の酒を飲み終われば、次はまたいちごに練乳をかけて食べる季節が巡ってくるのである。
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満開の桜はその重さで枝をしならせている。まるで熟した果実のようだ。遠慮がちにしたくしゃみにも、桜はぷるぷるとその花弁を震わせて、ぽたりと肩に落ちてきた。
朝までもてば、また誰かに見上げられ、愛でられたであろうに。
一合升の酒に桜を浮かべ、詫びるつもりで一息に飲み干した。
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ちなみに、その観光農園の焼き印は篆書で「雪苺娘」と書いてあるらしい。右隅に小さくヤマザキ製パンとも。
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一合升には焼き印が押してある。古代の漢字、或いは象形文字のようだが判読ができない。
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そうして大雪に降り籠められた里で身を潜めていれば、やがて春になり、いちごに練乳をかけて食べられる季節がやってくるのだ。
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前述の通り降雪のため峠の往来は途絶しているが、世の中にさして障りもない。
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店内は節電モードとはいえ、ひんやり気持ちがいい。入り口すぐの青果コーナーには、ところ狭しと…ところ狭しと…。
「すいか、メロン、桃、さくらんぼ…しまった!すでに季節は夏か!!」
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そして15分後、ほくほくと湯気を立てる固ゆで卵を前に、練乳を握りして涙する三郎がいた。
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しかも、その「ソフトカツゲン」は発売開始目前で謎の発売中止が決定した幻の「そのまま練乳みたいなソフトカツゲン」ではないか!
「発売中止の理由、そこはかとなくわからないでもない…」と思う三郎であった。
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そして翌日。三郎はみなれぬ文に戸惑っていた。
「はてなOneへのご招待?」
火鉢の炭で燃やすと、燃えカスを丁寧に火箸で突き崩し、灰に混ぜた。新しい物には、まず用心をもって接する、それが三郎の処世術だった。
軽く炒った豆を一粒、続けて熱い緑茶を口に含む。
「しかし、すっかり季節も変わったものだ…」
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「出な」と言われたはいいが出口までの案内はなく、三郎は一人暗闇の洞窟を彷徨った。微かに光が滲み出る岩の隙間を素手で掘り、ようやく外へまろびでた時、三郎は自分が既に地獄の炎の中にいることを知った。
いや、違う。この燃え立つような赤は
「紅葉だ!」
時は今秋の終り。三郎の頭には白い物が増えていた。
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注)ばびさんの前に私のってことにすると、話が問題なく繋がるので、そういうかんじで読んでくださいな
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今ではすっかり暗闇に慣れた三郎の目には、ゆらりゆらりと近づく蠟燭の炎すら眩しい。きれいに畳んだ着物に手甲脚絆は行李の上に、その横には暦代わりに積んだ小石の塔ができていた。
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そして、ゆにくろ製品に身を包んだ老婆が現れた。
おもむろに牢の鍵を開ける。
「出な」
いぶかしげに三郎は彼女を見上げる。
「昨晩、アカウント停止を喰らったんだ。だから、もう、お前さんにさせることは何もない」
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かくして二人で箒に乗り空へと舞ったのだった。
ふと頭上を見上げると煌々と満月が照っていた。思わず三郎は「月がきれいだな」と、言ちた。
そしてそれを聞いた雪女は顔を赤らめ「わ、わたしも…」と、呟いたのだった。