/短歌

重ねても欲しい色にはならぬ紅とともに暮らす半夏生かな

風鈴は全部違う音で鳴るひとつの茅の輪から吹き来る風に

時刻表どおりに行きかう日は続くまだやわらかな切株のそば

触れたくも触れずにいるまだ糸の渉しきらぬ繭のように

四拍子刻む列車の轟音は四拍めのウラが青空

ゆくあてもなくてななくせあるんです夏仕立てせり茜のつむぎ

言の葉よ未だちいさきこの胸にクープを入れてくれはしないか

工場と起き上がらせた高速のはざまに朽ちゆく完結のいろ

聳え立つファサードグラスが海を見る公開空地ピアス鈴鳴り

とうめいなリードにひかるるわれわれは犬より自由で鳥より不自由

朝市や珈琲を買う君を待つこぼれる光とクランブルと　　

５W1Hの回答はブロッコリーに集約されてる

みなづきの雨がすべてのラインを引きなおす屋根屋根山屋根山屋根

みなづきの水の流れを堰き止めて卓に白き碇（いかり）降り来ぬ

陽光にはな目覚めたる魚崎の運河はあいを目覚めさせをり

（春　神戸・魚崎大橋）

もくもくとただもくもくとのぼり来て出会う緑のスピーチバルーン

林立すコンクリートの白さまで響き渡りぬ紫陽花のいろ

青嵐に去るも残るも言の葉はみがかれてゆき鏡となりぬ

モルトフォンテーヌの想い出よ、はなづなを編む手がなでる木洩れ日

あま噛みならいいといったのに薔薇色の紅さしてみた夢のあなた