[四月十九日] 日が沈み 部屋の灯りを点した頃聞こえはじめた連続音は 今年初めての虫の音であったと 傘を取り出し気が付く 駅へ向かう道 小さな川沿いに植えられた八重桜は満開を迎え 街灯の光を覆い 燕か蝙蝠か 樹から川面へ羽ばたいた姿もその影へ失せる 大粒の雨が注がれ 特定できない概念の類が 微温の空気を介し 地面から匂い立つ 隣町から戻れば 雨はいつの間にか上がり 虫の音ももう聞こえてこない 朧な満月が今晩を灯している