id:usaurara は
うさのことを語る

[正気・狂気2]

「だが時に人はこのことを忘れる」
忘れたがる。というより初めからそれを理解していない場合も多い。うちの母はそんな人だ。
社会学やら心理学やら哲学やらに関心のある父が揃えたフロイト全集など、手に取ることもなかった。
父から見ればそういう感情だけでつき動く母が女らしくいとおしい存在だったようで、
怒りっぽい母の態度をフロイト風な分析で嘆息したりした。

父親が愛人に走ったり親族に近親相姦があったりで、母は自分の血筋を呪っていたのだろう。
そういう事実はのちにどこからともなく私にもわかったことだ。
母自身はそれらについて一切語らず、わけのわからない呪詛を小さな声で私に吐き捨てた。
性的放縦への極度な恐れは、中学生のわたしにでも透けて見えた。
母はよき妻・母として自分の欲望を封印し、私に貞淑だのなんだのを説いたけれど、
それは逆に「その実人間なんてそんなものじゃないだろう、そんな簡単なものなら
あなたは今こんなに苦しんでないはずだ」という確信を私にもたらした。

せめて自分はああいう呪詛を子に引き継ぎたくはない、と思っている。
だから純潔であれなどとはさらさら思わない。
人間とは弱いもので、汚いもので、矛盾だらけのもので、どうしようもない、という話をこそしてやりたい。