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ずぼんぼ@豆腐の角のことを語る

[オリジナル小説]
うわあ線引きの夢を見て目がさめた。
なんかしらんが近隣のひとたちと思われる面々と作戦会議のようなアレをしていた。

30年前から知っているある人物のことを思い出す。
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その人物は、故郷で小学校に通っていたころ、毎日のように見かける存在であった。
当時の印象は「自分より背の高いおじさん」であったが、いま考えると、おじさんにしてはやや小柄、がっしりとぽっちゃりの間の体型だった。暑い時期は半袖Tシャツかポロシャツ、寒くなると長袖、上着も着用していたが、ズボンは一貫していわゆるジャージ、これまた一貫して野球帽をかぶっていた。靴は白い運動靴だったと思う。が、よく履きこまれたそれは、黒っぽく薄汚れていた。そして小さな紺色のリュックを背負っていた。リュックにはあまり荷物が入っていないらしく、膨れているのは見たことがない。
そんな彼は、いつ見てもひたすら歩き続けていた。
小学校の前で見るときは、いつも私の自宅方向からやってきて、常盤公園の方に向かっていった。友人の家に遊びに行く途中でも何度も見かけた。
夏はおそらく汗だくになっていたのだろうが、不潔に感じたことはなく、というよりも近寄りがたく、年を経た今でも被捕食者の気持ちを忘れず他人を見つめることをしない私にとって、満足に観察することなど叶わぬ夢だった。
ほかとは異なる存在である、この歩く男をなぞらえる語彙を持たなかった私は、彼について友人や家族と話題にすることさえできなかった。おそらく友人と同時に目撃したこともあっただろうが、なぜか彼のことに触れる者はいなかった。禁忌的な存在だったのかもしれないが、自分にしか見えていないのではと思ったこともある。
中学高校も小学校と近かったので、普段の行動範囲が大きく広がったわけではなかったが、高校生のときは毎日のように自転車で市立図書館に出かけるようになった。市立図書館への途上でも、歩く男を見かけたことがあった。

東京の大学に進学し、故郷から遠く離れると、さすがに歩く男を見ることはなくなった。大学生のときは年間で延べ1ヶ月ほど故郷に滞在していたが、卒業して給与収入を得るようになると、故郷での滞在時間も減っていき、歩く男のことはすっかり忘れてしまった。
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それから10年ほど経過した帰省中のことである。
祖父の墓がある寺-高校までの行動範囲にはなかった地域に位置する-に車で向かう下り坂で、道路脇の歩道を一心不乱に歩いて登ってくる男とすれ違った。上下ジャージ、キャップ、薄汚れた白い靴、つぶれたリュック。
車内で思わず声を上げた。あの歩く男だった。記憶にあるより小柄だった。最初に認識してから20年ほど経過していたはずだが、(はっきりと風貌を記憶していたわけではないが)あまり年をとっていないように見えた。歩く男の姿はほどなくバックミラーから消えた。
動悸を抑えつつ運転を続け、祖父の墓参りを済ませた。帰宅後、母親に歩く男のことを話した。他人に歩く男のことを話したのはこれが初めてだったはずだ。
おそるおそる切り出す。「これこれこういう風貌の歩く男を小学生のときから見ていた。20年を経て、今日、また目撃したんだが」というと、母は「ああ、あのお兄ちゃん、ずっと歩きよるねえ」と言ったが、素性は知らないということだった。これまで何キロ歩き続け、靴は何足履きつぶしたのだろう。何のために歩き続けているのだろう。
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それからさらに10年経過した今、私は線引きに興じている。始めてからおよそ100日経過し、これまでに800km弱歩いているようだ。
あの歩く男は、30年前からE○otic物質を集めるために歩きまわっていた、世界最初のエージェントなのではないかと考えると、腑に落ちるのだった。