~ミロラド・パヴィチ『風の裏側』(東京創元社)読了~
わたしに山手線二駅も乗り過ごさせた絶品本!!
という紹介で、よい?
よいかしら?(笑)
著者いわく、「一回半」読むようにと。なるほど。わかる。
真ん中に、青い紙がはさんである。そして、本の表裏双方から、ヘーローとレアンドロスそれぞれのおはなしとして読むことができる。伝説の悲恋をもとに、パヴィチのとんでもない「語りの魔法」によってその不可思議な運命を生かされる男女の物語。
ちなみに、この伝説は神曲にも出てくる。
(煉獄篇28歌から引用。ヘーローの名前はないので、レアンドロスだけで当時、通用したとみなすべきと思う。有名だったのね。
più odio da Leandro non sofferse
per mareggiare intra Sesto e Abido,
che quel da me perch' allor non s'aperse)
PURGATORIO CANTO 28 (英訳あります)
http://www.worldofdante.org/comedy/dante/dante_purgatory?doc=/db/dante/english/purgatory/purgatory.eng_2.28.xml&kwd1=leander&language=english#m1
にしても。
パヴィチ教授、素敵すぎる。
どうしてこんなことを思いついて実行できちゃうんだろう。
というか、わかるけど。すごく、わかるんだけど、そうきますかって吃驚する。
(そして教授、といいたくなる。ソルボンヌ大学でも教鞭をとっていたそうな。そして今回なにが羨ましかったかというと、このひとの『ハザール事典』がフランスではベストセラー本であったという事実。あんなムチャクチャな本がベストセラー!! かっこよすぎるフランス人。いつも「おフランス」とか呼んでバカにしてごめんなさい。愛ゆえの揶揄(からかい)だけど、こんどは本気で尊敬してしまったわ。日本じゃ絶版だもん。ああ、なんてこと!)
ミノラド・パヴィチ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81
惜しくも去年、お亡くなりです。
そういえば、『ハザール事典』でも思ったのですが。
19世紀的な運命の女(運命の恋)的な構図にのっとりながら、悲恋や悲劇に邁進するロマンチシズム(またの名をセンチメンタリズム)からは程遠い。
しかも。
「魂は、死と同様、男女一対になっているのかもしれない」
とこのはなしでも書かれたように、この橋渡しの構図、「対幻想」というよりはもう一歩さらに複雑な、作中でも記されるΘ(テータ)の文字、この「媒介者」としての「運命」なのか「語り手」なのか、それこそがおそらく作者パヴィチの真実の姿なのであろう。
ちょっと一歩ひいてる感じ。もしくは鏡から、なにか水面からのぞく感じとでもいうのか。精緻を極めた文体なのに、ちょくせつ触れられないもどかしさのようなものがある。作品のテーマにそって喚起される感覚かと思っていたけれど、なんとはなしに、パヴィチというひとの「生理」かと思えた。溶け合い結ばれることの困難さというのかしら。不可逆的なものに逆らい、こういう可逆的な形式の小説を書きながら、そうだからこそより強く、小説の構造がカッチリと、どこもかしこも隙間なく合わさりすぎている(すぎているという言い方は語弊があるでしょうが。でも、この合わさり具合は如何にも神経症的で、小説の構造と言語の絡み具合こそがその作者の力量のひとつと思うわたしはとても、とてもキモチイイけれど、でも、こうまでやられると他のひとはどうだろって思わなくもない)。だからこそ、その合わさる表面を意識せずにはいられないというのか。
そこらへんが物凄く好きなんですが。ええ。たまりません。この、なれあわなさ(笑)。
そんなふうに、パヴィチがセルヴィア人であること、旧ユーゴの歴史など思い起こし、思わずため息をつきたくなるおのれの脆弱さに踏ん切りをつけて、つぎはマルセル・シュオッブ『少年十字軍』に行っちゃおうっと。
さいごに。
「ほらこの結び目、太いのもあれば細いのもある。縄がおのれの尻尾をしっかりとくわえ込んで弛まぬように結わかれておる。どんなに強く引っ張ったって、びくともしない。なぜなら縄は、だれの助けも借りず、自分でふんばっているからだ。人もこれと同じこと。各人がおのれの分を尽くして、しっかり結び目を拵えていれば、いがみあわずに力を合わせられるし、国の守りをしっかり果たせるだろうに。ところがあの連中ときたら、実際は、水でできた縄目みたいに、四六時中ひずみを生じ、ばらばらにほぐれてしまう。それというのも、他人様のために義務を果たすことばっかりで、やりたいようにできんからだ。」
背中から太い釘(あの吸血鬼に打ち付けるようなやつです!)で刺されたように痛かったので、書き残しておく。
(ほかにもありとあらゆる文章が印象に残りすぎて抜書きしたくてたまらないくらいですが)
