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勝手に引用のことを語る

 ヘレナ・ネヴィルがおおげさに身体をふるわせた。
「なんだい。おまえは冬のさなかに窓から抜け出して、しょっちゅうポニーのようすを見に行っていたじゃないか」
 兄に言われて、ヘレナ嬢はポマンダー・ボールで彼をぶった。
「卿、女性はだれしも過去を思い出させられるのはいやなものですわ。ヘレナ嬢のようにちゃんと応戦の武器をお持ちのかたは、めったにありませんし」公爵夫人がたしなめた。
「ご自分が淑女であることをお示しになるとしたら、その武器はおおきになったほうがよろしいのでは」ホーンがしかつめらしく言った。
「でもそうしたら、だれがわたくしを守ってくれますの」ヘレナの目は、みなの注目の的になった喜びにきらめいていた。
「守るとはなにから?」兄がそしらぬ顔でたずねる。
「まあ、もちろん、侮辱からですわよ」公爵夫人が助け舟を出す。
「失礼ながら、公爵夫人」クリストファー卿が答えた。「真実を申すことは侮辱とは言えないと思いますが」
 
エレン・カシュナー『剣の輪舞』(井辻朱美訳)より抜粋。