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短編のことを語る

~この胸の炎 2~
 
 
 ニコラの問いに、自問していた。
 俺は、いまの大神官様が14歳で神官資格をとったのと同じだけの速さで出世した。
 ちなみに、太陽神殿の神官資格は試験に通れば誰でも取れる。10代で教義をおさめ終わる人間も極少数ではあるが、いる。寝る間も惜しんでガリガリやれば、どうにかなるもんだ。ただし、その後、神殿を任されるか否かは人間性がものをいう。身分はたしかに有利に働く。だが、俺のような農民出でも、あからさまに待遇を変えられることはない。だからこそ、俺は、太陽神殿に勤めようと思った。
 正直、この国の守護神である死の女神の神殿は、貴族のほうが圧倒的に有利だ。そんななかで努力したってしょうがないと思っていた。もっといえば、そんな腑抜けたところにいるやつらは愚かだと呆れた。
 ところが、そう思っていたくせに俺は貴族の娘との結婚に憧れ、その好機をつかんだと思ったとたん、その娘に捨てられた。
 14歳のときだ。
 その結婚で、俺は貴族の家の養子に入れるはずだったが、娘にふられて何もかもを失った。俺は自棄をおこして聖なる炎の番を怠った。
 最悪なことにその不始末は大神官様の耳に入り、俺は取ったばかりの神官資格と、見習い資格まで剥奪され故国に帰された。
「自分でも、なんで農夫に戻らなかったのかと思うことはありますよ」
 手についた薬草の香りに気をとられたふりで、それだけ口にした。
 給金は返せといわれなかったから、自分の生まれた村に帰って、少し大きな土地でも借りればよかったとも思う。そうすりゃあ、去年なくなったお袋だって、もう少し楽をできたにちがいない。
 俺なんかに目をかけて帝都まで行かせてくれた領主様は、俺の嘘をそのまま信じた。勉学したがモノにならなかったと聞いて落胆はされたが、叱らなかった。田舎で神童と呼ばれた少年が、帝都学士院で潰れていくことは珍しくはない。
 あんな田舎じゃ帝都なんて地の果てほども遠いし、この神殿の人間が話さない限り、俺の嘘はばれっこない。この神殿の奴らはみな神官様に似て、そういうところでひとを貶めるような真似をしなかった。それが居心地よくて、ここに居座った。
 それでも、領主様は、俺がいつか自分の領地に小さな神殿を設けてくれるものと信じていた。なんつうか、ほんと田舎領主らしく善良なお方なのだ。
 俺はただ、あの方の希望を挫くのが嫌で、かといってそのための努力もせず、ここでのうのうと暮らしていた。
「ジャン、おれはさ、エミールがおまえに癇癪おこす前に、おまえ自身がもうちょっと頑張ってくれりゃあ、おれの仕事も楽になって有り難いと思ってるがな」
「あんたに楽させるのはまだまだ早いでしょ」
 憎まれ口をたたくと、みぞおちをズンと小突かれた。
「いてっ、乱暴はよしてくださいって」
「五体満足の若いもんが何いってるか。エミールの健気さを少しは見習えよ」
「あいつは真面目だから」
「おまえだって、まじめだったから神官資格を取れたんだろ? それは立派だが、女にふられたくらいで何年もいじいじしてちゃ、伯爵様を笑えんだろ?」
「俺、べつに神官様を笑ってなんていませんよ。畏れ多い」
「嘘つけ。おまえは自分のことばっかりで、伯爵様のおこころを慮ってなんていないよ」