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短編のことを語る

 ~この胸の炎 1~ 
  
 
 このところ毎日、我らが太陽神殿の主は街の西向こうにある古神殿にお出かけだ。
 そこには、この国のお姫様がいらっしゃる。10年前、そのお姫様と神官様は相思相愛だったらしい。
 仲間みんなが大盛り上がりなんでいちおう話を合わせちゃいるが、ほんというと、俺が気になるのはこの神殿がどうなるかってことだ。
 神官様はルネ・ド・ヴジョー伯爵様といって、この大陸でも有数の名門貴族のお生まれだ。そこに、隣のモーリア王国から王女を嫁にもらわないかっていう話がきた。
 なにせ、仰々しいナリをした宰相閣下がお出ましになってのお指図だ。
 ここにいる奴らはみんな揃いもそろって世間知らずっつうか、我らが神官様の立場ってものを考えちゃあいない。
 エリゼ公国の未来がかかってるのに。
 俺だって、本音をいえば神官様には幸福になってもらいたい。
 だが、そうはうまくいかないのが世の中だってことくらい、俺はちゃあんとわかってる。
 好きあってるからって、結婚できる貴族なんているわきゃない。
 言ったが最後、エミールあたりに目ン玉ひんむいて反論されっからいわないけどな。
 子爵家のお坊ちゃんは、世の中のイイとこしか見てねえんだよ。
 そんなわけで俺がひとりむしゃくしゃして菜園の草をむしってるところへ、この神殿でいちばん年長のニコラが足を引きずりながらやってきた。
「どうした、ジャン。さいきん苛々しているようだが、気になることがあるんだろう」
 単刀直入に決め付けるところがニコラらしい。歳は40と、おれの倍近くになる。この男は、かつては神官様の父上の従者であったらしい。つまり、元は貴族っつうことだ。そんな高い身分じゃないといってたが、帯剣が許されるってのは立派なもんだ。足が悪いのは野盗と戦った名誉の負傷というやつで、身体つきは頑丈だ。長衣から突き出た腕なんか、俺の太ももくらいありそうだ。
 だが、背は俺のほうが高い。腰をあげると俺より下になった赤ら顔を見おろすと、ぎょろっとした薄青の目に見据えられた。
「神官様がモーリア王国の王女様と結婚されたら、この神殿はどうなるんすか? そしたら今までのようにこの神殿にお住まいになられないでしょう? 神官様がいなくて、どうなるんですか?」
「なんだ、そんなことを心配してるのか」
「大事なことでしょうが」
 俺が声をあげると、ひょいと分厚い肩をすくめ、
「おまえが神官になればいいだけだ」
「俺は、資格を剥奪された身分ですよ」
「伯爵様がひとこと帝都の大神官様にお願いすれば、そんなのすぐに取り下げられるさ。おまえの覚悟が決まらんだけだろう? もういい加減、その女と、他でもない自分のことを許してやれ」
「俺はっ」
 声を荒げた俺の腹を固めた拳で突く真似をして、ニコラは下から顔をのぞきこんできた。
「自分のことを許したというなら、なんで作男なぞに甘んじてる? おれは、おまえがここの神官に無事おさまってくれれば、伯爵様がこの国の政に携わることができて安心だがな」
「……あんたも、あの方がこの国のお姫様と結婚すると思うほうか?」
 俺がわざと話をずらしたことを察した顔で、ニコラが苦笑した。
「いや、それはわからんさ。だがな、どちらに転んでも、あの方はこのちっぽけな神殿の炎を守るだけでは勿体無いお方だ」
「俺は違うと?」
「おまえは志があって神官職を目指したんだろうに。神童と呼ばれて帝都へ赴いたくせに、なに言ってるんだか」
 このオヤジ、厭なことを思い出させてくれるぜ。
「そんなの、二十歳すぎりゃただの人でしょ?」
「あと一年あるじゃないか。神官はただびとと違い、ひとを導く立派な身分だぞ?」
「俺は、あのちんけな村から出たかった。野心があっただけですよ」
「今も、あるか?」