id:kutabirehateko は
くたびれ はてこのことを語る

その日はミニコンサートがあるということで、途中B5のコピー用紙にプリントされたパンフレットと、キャンドルの入った丈の高いグラスがテーブルに運ばれてきた。ミュージカルメイドによるコンサートと書かれている。
 
まもなく店内が暗くなり、入り口からいちばん離れた店の奥、突き当たりのキッチンの真裏に当たる壁の前でメイドさん二人が歌い始めた。マイクはない。アメイジング・グレイスやグレゴリオ聖歌、学生唱歌などを声のきれいなメイドさんが小鳥のように歌う。いわゆる萌え声ではない。意外。乙女の生歌を聞くことを楽しむコンサートだった。萌えというより雑誌MOEの世界だった。
 
ここではたと、この店内にはメイドさんをのぞいて実際に乙女だったことがある人はほとんどいないのだと気付く。女性のお客さんはわたしを含めてもうひとりだけで、あとはどこのジャンクショップに入っても恥ずかしくない堂々たる風貌の人ばかりだ。
 
この店には夢がある。清らかな、詩を愛する乙女の歌声を聞く店にいるという夢がある。ここには「プッ」という笑いや照れ笑いや誤魔化し笑いは必要ない。メイドさんの乙女ぶりを批評したり批判したりする悪い習慣からの自由がある。メイドさんの声はきれいだった。放課後の音楽室で歌っている知らない女生徒の声を聞いているようだった。それを真正面から見て、聞いて、怒られず拒絶されず、笑顔で応えてもらえるのだった。