祖父が部屋で薄い毛のガウンを着ていた。軽くて暖かそうだけど、古くて汚れて穴だらけだった。
昨日ハッと「洗えばいいんじゃん、穴は繕えばいいんじゃん、むしろ繕い放題じゃん」と思い
洗面所でぱぱっとアクロンで手洗いしてふんわり乾燥させ、午後は時間が許す限り繕って過ごした。
祖母が遺した裁縫箱のミシン糸を使ったので、色は似ているけれど縫い跡がキラキラする。
それでも靴下の穴ふさぎで鍛えた穴ふさぎ力が活かされ、いい感じに穴はふさがった。
むしろ新しいのを買った方がいいんだろうなと思いながらついつい繕ってしまったが
昼寝から目覚めた祖父は
「それはもう捨てようと思っとったが、これなら階下へ着ていける。まだ正月まで買わんでいいが」
と予想外に喜んでくれた。本当にうれしそうだった。迎えに来たもちおに
「これはもうどこに穴が開いとったかわからんよ。奥さんがおるというのはこんなにいいものかねえ」
とぜんそくをひゅーひゅーさせながらにこにこ顔で話していた。
ブランド衣料を死蔵させるのがだいすきなあの一家の中で
財産をすべて譲った祖父があのガウンを着ざるをえなかったことを考えると
素直に喜べない。むしろ泣きたい。
「穴を繕うのはだいすきで、おもしろくて、たのしい」
と言ったのは本当だけど。軽くて温かいガウンを探そうと思う。
