「私はこういう性格だから、けっこう声をかけられるよの」
自慢じゃないけどわたしは外で声かけられたことがないね。
「区役所広場のイベントで席を探してたら、じいさんが自分の鞄をどけて座らせてくれてね。それで手招きしてるから座ったのよ。そしたら後で『つきあってくれ』って言ってきたの」
なにそれロマンチック。
「その人50いくつだったんだけど、そのときあたしももう70過ぎてたわよ。歳言ったらびっくりしちゃって」
「年下はお嫌いですか」
「やあよ、じいさんなんだもの」
老婦人はけして器量よしとも愛嬌があるともいえない顔立ちだったけれど、独特の雰囲気がある方だった。
誰に会うわけでもなく天神に昼ご飯を食べに出てくるのに神経の行き届いたお洒落な身繕い。
完全に選ぶ側だということがよくわかった。
「まあ一人は一人だけど、こうして外にも出られるし、年金は毎月20万ちょっとあるし、幸せな方よね」
年金一人暮らしの苦労をせつせつと語るのでご馳走しようかと思ったが、これを聞いてやめた。
よく聞くと日頃から団地のじいさん連中に声をかけられては適当にあしらっているらしい。
今日もどこかでじいさんを袖にしているんじゃないかと思う。
年金暮らしの寂しい老女はいまどきのアラサー女子よりリア充ライフを満喫していた。
