「そういう金は、やっぱりあぶく銭だからパーッと使っちゃうんだよ」
「そうなんだ」
「アムステルダムに行ったときも、賭博場で勝った。あのときはいくら勝ったかわからなかった。時間がなくて、数えずにビニール袋に入れて空港に走ったからな。一緒に行った連中、待ってるんだもん。で、持って帰っても仕方ないから使っちゃえって、一緒にやった友だちと空港で時計屋に行ってさ。『ここからここまで時計くれ』って言ったのよ。そしたら売り場の白人が『馬鹿なアジア人が来たな』って顔で苦笑いして、電卓叩いてさ、これ一個いくらだって見せるわけよ。それでビニール袋からカウンターに札束どさっと出して見せたら、びっくりしてさ。慌てて包みだしたんだけど、箱とか保証書とか一個一個付けようとするから、いらない、本体だけでいいって言ったんだよ。だってかさばるだろ」
「その時計どうしたの」
「土産でみんな人にやったよ。俺はそのあとキャビア売り場に行ったんだよ。ガラスケースの中に、高そうなキャビアが積んであってさ。『これ全部くれ』って言ったら、そこでも『文字が読めないアジア人が何か言ってる』って顔して、売り場の女が電卓叩いて見せてきたんだよ。そこでビニール袋バサッとあけて、札束見せてさ。そしたらすっごい慌てて、キャビアに一個一個保冷剤つけようとするから、それは要らない、本体だけでいいって言ったんだ」
家計を共にしていたころ母は烈火の如く怒っていたが、他人事として聞いているととても面白い。
