酔っぱらって饒舌になった父。
「俺は賭博じゃ負けない」
「へー」
「フィリピンで賭博場に行って、ルーレットやったんだよ。俺、勝つたびに煙草売りの姉ちゃんにチップをやったんだよ。そしたらだんだん姉ちゃんたちが俺の周りに集まってきてさ。周りはみんな中国人だよ。あいつら、勝っても負けてもチップやらないんだ。そのうち集まった姉ちゃんたちが横から「何番に賭けろ!」とか「赤だ!黒だ!」とか、いろいろ言ってきてさ。それで俺が勝つたび、もう大騒ぎよ。中国人は俺のこと、やーな目で見てたよ。しまいにはフロア中のお姉ちゃんたちが俺の後ろに集まってわーわー言いだして、俺が買ったらオオオー!!って歓声が上がるようになってさ。俺、もういいから出ようって友だちに言って、店出て飲みに出たんだ。そしたら、バーの入口に煙草売りの姉ちゃんが二人、追いかけてきたんだ。エプロンに煙草乗せて売ってるんだけどさ、その姉ちゃん二人が『あたしたち、まだもらってない』って言うんだよ」
親戚の子供か。
「それでどうしたの」
「チップやったよ」
「あげたんだ」
「だって俺煙草吸わないから、煙草買うわけにもいかないだろ。あのときは、400万円ぐらい勝ったな」
こういう話を楽しく聞くコツは「ああ、お父さま。それを私にくださったなら」と考えないことです。
