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ゆきのことを語る

群馬の夏は暑かった。
私がいたのは日本一暑い熊谷の隣の町で、連日40℃近い日が続いていたある日。
その少し前に日本を震撼させた団体の住所の身分証明をつけた、まだ少年に見える男の子が、冊子だったかを売りに会社にやってきた。
当時の勤務先の社長はそういうことが大嫌いで、ひどい言葉を投げつけることも考えられたので社長に見つかる前に早く出ていって欲しかった。

うちではそういうものは買えないし、寄付もできないからと断り帰ってもらった。
その後私は一時間ほど役所に出向き、戻ってきた車から、会社の近所の草原に彼が40℃近い天下に膝を抱えてうずくまっているのを見た。
急いでコンビニに向かい、お茶と水を買った。
それを渡し、そのまま家に帰れと必要ならいくばくかのお金も渡すつもりでいた。

戻ると姿は見えなくなっていた。
回りを見渡したけれど、彼らしい姿は見つからなかった。
彼はあれからどうしたのだろうと今もふと思い出す。

当時の私は家に帰れと言うつもりだったけれど、今思うと、家がなくて(心情的に)神を求めていたのだろうか。
だとしたら、あの時の私になにができたのだろうか。