虫の音が私を不安にするのは、夏休みの終わりの音だけではなくて、小学生の頃の夏に何度か経験した夢遊病状態と、二十歳くらいで何度か繰り返したひどいパニックを思い出すから。
小学生の私は、二段ベッドの上から降り、居間でくつろいでいた祖母・両親・叔母の前にやってきて無言で立ち尽くした後、またベッドに帰るを繰り返したらしい。
夏が終わると同時に終了。
気味が悪かったと母の談。
二十歳くらいの私は、気がついたら誰もいない居間でクッションを抱えて、猛烈な後悔と不安と絶望にどうしよう…どうしよう…と、うずくまって冷や汗をかいていた。
そのうち落ち着いてきたら、あれ?私なにを怖がっている?と、ゆっくりゆっくり考えてみたけれど、そんな絶望に私を陥れる現実はなにもないのだった。
その後も夏は何回か同じことを繰り返していて、そのうち知らないうちに衝動的に死んじゃわないか不安。
原因もないパニックに。
そして、いつも私を現実に引き戻すのは、いつの間にか耳に聞こえ始める虫の声なんだった。
