学校は大学以外いつも好きではなかったけど、大きな波がふたつあって、中三と高二の私は本当に本当に学校が嫌いだった。
高二ともなると、サボっても行く先もあったんだけど、中三の時はまだ仮病以外でサボる知恵なんてなかったから、泣く泣く家をでては学校に行っていた。
その中でもあれはなんの時だか、もうどうしても行きたくなくて、でも家から追い立てられるように出た私は、雨の中を実にのろのろのろのろ学校に向かっていた。
学校にほど近い途中に、山の谷間みたいな場所があって林のようになっていた。
その山道を、たまに車が来る度に、学校へ向かうようなふりをしては歩き、車をやり過ごすとまた谷間に戻っては身を隠すように立って、ただひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
その谷間に、山を背に小さな平屋の家というよりは物置のような建物があって、そこからおばあさんが顔を出すと、寄りなさいと言うのだった。
知らないひとに家に招かれてはいはいと上がる私は恥知らずだけど、そのときは学校の方が遙かに怖かったので、地獄に仏というか渡りに船というか、口ではいいんですか?などと言いながら、おじゃましたのだった。
土間から続く居間部分にはおじいさんも居て、学校のことはなにも訪ねられずに、地区の昔話などを聞きつつお茶をご馳走になり二時間ほどを過ごすと、お礼を言って学校に向かった。
その後そんなふうに立ち寄ることはなかったし、いつ見ても雨戸が閉まっていて、住んでいるのかどうかもわからなかった。
ある時から郵便物がたまり始め、さりげなく父に尋ねるとどちらかが入院して、残ったひとりは子供の家に同居を始めたのだと言った。
高校になるとその道はめったに通ることもなくなり、たまに思い出してはいたけれど、敢えて行ってみることもしなかった
。
こちらに戻ってから歩いてみたら、谷間の林は伐採されて広くなり、家があった場所はそんな物がどこにあったのかというように山肌には木が茂り、そこに家があったとは考えられないスペースなのだった。
でも、あそこには確かに家はあって優しい老夫婦に親切にしてもらって、あの雨の日に学校に行った。
遠い夢の中の記憶のようだけど、家はあったんだよ。
