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ゆきのことを語る

昨年夏から父を悩ませていた、父所有の賃貸物件のこと。

十何年も前からその部屋がゴミ部屋になっていたのは誰もが知っていた。
部屋の外にゴミ袋を出して、それをカラスや猫が荒らして近所中にゴミがまき散らされることが何度もあって、私はそれを見る度に、全部袋に詰め直して、野良猫やカラスが荒らしますから決まった日時にゴミステーションへ出して下さいと張り紙をしては戻しておいた。
いや、効果はなかったけど。

母の代理で集金に行っても電気はついているのにチャイム鳴らしてから五分以上も出てこない。
玄関の中も外も電気はつけず、ドアを15センチほど開けてそこから体を斜めに滑り出してくる。
ドアから見える靴脱ぎは、ポストから落ちたままの郵便物が堆積し、たたきなのかその先のキッチンなのか区別はつかない。
靴脱ぎに続くキッチンは、口の縛られたレジ袋が天井まで届き、キッチンのシンクもガスコンロも冷蔵庫すらその中に消えている。
ゴミの堆積した中にわずかに居室からの獣道が見える。
床らしいものはどこにも見えない。
よくテレビでやるアレそのまんま。あれよりひどかったかも。天井が低くなってたもの。

ご存じのハイカーさんも多いでしょうが、今って居住者の方が権利が強いのよね。
話していても若干認知症が始まっているとしか思えない言動であって、(保証人呼んで片づけを要求したところ、保証人は大家なんだから自分でやれば?頭おかしいんじゃない?と言われ、父激怒)話にならない。

保証人に連絡してものらりくらり。

そして昨夏事件は起きた。
畑に行った父が、畑の隣のアパートの入り口でぐったりしてるばあさんを発見。意識朦朧。
玄関から出ようとして堆積した郵便物できっちり閉まらなくなっていたドアから、ゴミに足を取られて滑り出してした模様。(鍵はゴミに埋もれて行方不明だった)
もしくは熱中症。
洋服も夏服が見つからないのか、真夏なのに冬のニットとズボンだった上、見られたら困るとは思うのか、窓は一日すべて閉めきり。
後に近所のひとが言うには、夜中になると玄関から外に出てコンクリートの上で寝ていたそうな。

キッチンも洗面所もゴミに埋もれ、水がでる場所がなくなってた。
浴室も浴槽はゴミ箱と化し、洗い場のわずかなスペースを使っていたらしい
冷蔵庫も天井まで届くゴミに隠れていて、近所の自販機から買ったお茶の空ボトルがドアからガラガラとあふれ出してた。
ガス台の上も天井までレジ袋が積みあがり、ガスが使えない状態になっていたのは幸いだった。

救急車と保証人を呼んで、保証人に現状を確認させ退去要求。
その時は申し訳ないと言っていたのに、退院して戻るのらりくらりと話にならない。
保証人がコンテナ持ってこさせて捨てたゴミも、あっという間にまた堆積していった。(カーテンが窓に押しつけられてくるからすぐわかる)

弁護士まで入れてようやく出て行かせたのだけど、現状回復義務については本人保証人ともガン無視。
長く住んだんだから経年劣化と言い張る。
経年劣化って、シンクが錆びて穴が空きますか?
ホウロウの浴槽に穴が空きますか?
実家の外のシンクだって吹きさらしで三十年くらい経ってるけど、腐ったりしませんが。

引っ越しの日にゴミ捨てと片づけを兼ねた業者がきたのだけど、今まで何度もゴミ部屋は見てるけど、今まででこれは一番ひどいと父にぼやいたそうな。

回復費用はいくら言ってもらちがあかず、不動産屋担当者までもが当人同士の話し合いで・・・と逃げる。

そんなことしているうちに父の体調不良で、おかしなひとたちに付き合ってる時間がなくなった。
百万を越える回復費用を請求できないまま終わりか・・・と、でもまぁ出火させる前に出て行かせただけで儲けもの・・・とみんなが思ってた。

そしたら。
つい最近、その不動産屋担当者が逃げたそうで、新しい担当になりましたと挨拶にきた新担当者に話すと驚愕。
すぐに上司に話が通され、上司は父の病室に花籠をもって飛んできた。
(若い娘の病室じゃあるまいし・・・と照れまくった父、すぐに母に持ち帰らせる)
前の担当者が、いっさい報告せず握りつぶしていたらしい。
平身低頭で謝り続ける上司に、そこまで言ってくれればもういいと父は言ったらしいけど、会社の信用問題なんで必ずなんとかしますと言って帰ったそう。

一年半かかって、ようやく父の心労のひとつが片づこうとしている。
よかった。本当によかった。