id:dominique1228
勝手に引用のことを語る

 そう、私は興奮した。新しいスーツを買い、三つの短編をタイプで打ち直した。そして木曜日、きっかり七時に彼女の家のドアのところに立った。
 私はいまでも、ウィラ・キャザーがクロテンのコートを着ていたこと、パーク・アヴェニューの高級アパートに住んでいたことを思い出すと驚きにとらわれる(彼女は、故郷ネブラスカ州、レッド・クラウドの静かな通りに住んでいるとばかり思っていたから)。アパートの部屋数は多くはなかったが、大きな部屋で彼女はそこに一生の伴侶となる、彼女と同じ背格好、年齢の、控えめで優美なイーディス・ルイスという女性と一緒に暮らしていた。
 ミス・キャザーとミス・ルイスはとてもよく似通っていたから、誰もが、二人が一緒に室内の装飾をしたものと思うだろう。あちこちに花が飾られていた。ウィンター・ライラック、ボタン、ラベンダー色のバラ。リビングの壁という壁には美しい装丁の本が並べられていた。

――Yom Yom vol. 6. ウィラ・キャザーの思い出. トルーマン・カポーティ. 川本三郎訳. p.509.