私は仰天した。なんて馬鹿だったんだろう? 彼女の写真を寝室に持っていたではないか。まぎれもなく彼女はウィラ・キャザーだ! この雲ひとつない空のように青い目。ボブ・ヘア。しっかりしたあごの四角い顔。私は笑ったらいいのか、泣いたらいいのかわからなくなっていた。生きている人間でこんなに強い印象を与える者は他にいない――たとえガルボやガンジー、アインシュタインやチャーチル、スターリンに会ったとしてもこれほど強い印象を受けることはないだろう。こんな人間は他に誰もいない。彼女は明らかに私の動揺に気づいている。二人ともそのまま黙っていた。私はダブルのマティーニをひと息で飲んだ。
しかし、まもなく私たちはまた通りにいた。雪の中をゆっくり歩き、パーク・アヴェニューの、高級で古風な家が並ぶあたりにたどり着いた。彼女がいった。「さあ、ここがわたしの家。」それから突然、こう付け加えた。「木曜の夕食、時間があったら、七時にお待ちしているわ。その時、何か書いたものを持っていらっしゃい――ぜひ読みたいわ」
――Yom Yom vol. 6. ウィラ・キャザーの思い出. トルーマン・カポーティ. 川本三郎訳. p.508-509.
