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勝手に引用のことを語る

 その後、なんとか彼女が命をとりとめたと聞き、私は彼女の病院に行き、見舞いの本を置いてこようとした。しかし、驚いたことに真っすぐに病室に通された。印象的だったのは病室の狭さだった。相部屋でこそなかったが、幅のない鉄のベッドと木の椅子がひとつあるだけの、閉所恐怖症を起こさせるような小部屋は、「銀幕の女王」が生きるか死ぬかの戦いをしている場としてはふさわしいところではなかった。
 彼女が大きな試練を経験したことは確かだったが、それでも非常に元気だった。顔色は病院のベッドシーツより白く、化粧をしていない目は、泣いている子供のように、傷つけられ、腫れぼったく見えた。肺炎と呼んでいい病気からなんとか回復しているところだった。「胸と肺に、ぶあつい黒い火のようなものがいっぱいたまってしまったのね。その火を外に出すために、喉に穴を開ける手術をしたのよ。ほら」そういって彼女は、喉の傷を指さしてみせた。傷口は、小さなゴムの栓でふさがれている。「この栓を抜くと声が消えちゃうの」。実際に彼女はそうしてみせた。確かに声が消えた。その結果は私を不安にさせたが、彼女の方は私の怖がる様子を見て面白がった。

――Yom Yom vol. 6. エリザベス・テイラーの思い出. トルーマン・カポーティ. 川本三郎訳. p.500-501.