id:discordance
残業(トナカイ)のことを語る

事務所に戻る道。歩道の先で高校生くらいの青年が自転車にまたがり、郵便ポストの投函口に手を差し込んでいるのが見えた。
青年はポストに差し込んだ左手の手前半分あたりを凝視して微動だにしない。私がポストの位置に近づくにつれて、その両肩が緊張し、自転車のハンドルを握る右の拳にも相当な力が込められているのが見て取れた。

彼の指先に纏わりつくのは手紙か、葉書か。それをしたためた彼の変化を渇望する焦りと、その決意によって齎される不可逆な未来への恐怖がポストの投函口でせめぎ合っているようだった。
私はそれ以上ポストの方を見ないようにして通りすぎ、更に先の信号のところまで歩いた。十数秒後、赤信号を待つ間に一度だけポストを振り返ったが、すでに青年の姿はなかった。
果たして彼の決断は投函されたのだろうか。彼はどちらの後悔をしているだろうか。