id:discordance
残業(トナカイ)のことを語る

[ハイク脳]
屋外で手袋をつけようとして、それが指先をはらりと離れ、音もなく地面に落ちた。で、その冷たいアスファルトの上で無防備に横たわる自前の手袋を拾い上げようと、視線のフォーカスを足元に合わせた瞬間、背筋のあたりに、ぎくっ、と反射のようなものが走った。おい、写真取らないのか。いつもカレーにスプーンを突っ込んだ後に聴こえてくる、あいつの声だ。江東区の路上に右手だ、ほら。違う、今右手が寒いから俺だけが右手と分かるだけで、これは左右両用だ。じゃあ江東区・両手用だ、お前さっき目で手袋の写真切り取ったよな。じ、自分の手袋の写真が撮れるわけないだろう。なあ、ほんとに拾っちゃうのか。あ、当たり前だ!下に伸ばした右手の指先がニット地の感触に触れると、あいつは落胆まじりの舌打ちを残して背筋の中に収束した。後味のわるい奴だ。
両手用手袋の右側を無事拾い上げた後で、手袋装着に成功していた左手がポケットでスマホをまさぐっていたことに気が付いた。