「スクリーントーン、スクリーントーンは要りませんか?」
スクリーントーン売りの少女が、吉祥寺の街で呼び込みをしています。
「吉祥寺なら漫画家さんたくさんお住まいだから、きっとはけるって聞いたのに、朝から一枚も売れないわ……」
少女は悲しそうにスクリーントーンの角を揃えながらつぶやきました。と、少女の前に赤と白の横縞の長袖シャツを着た男性が立ちました。
こんな変わった服装の人は漫画家に違いない、少女は確信して声をかけます。
「スクリーントーンいかがですか?」
すると、横縞シャツの男性が言いました。
「お嬢ちゃん、さいきんの、それも吉祥寺に住むような漫画家はね、デジタル化した仕事環境で、もう買ったスクリーントーンを切り貼りするようなのは、いないんだよ」
そう言うと、おかしな形に形づくった指にお札を挟むと、
「グワシ!」
そう言って少女に差し出しました。畳まれたお札が五千円札であることに少女が驚いている間に、横縞シャツの男性はどこへともなく歩き去っていきました。
「漫画家は、デジタル化した仕事環境で、もうスクリーントーンを切り貼りしないなんて……。知らなかった」
少女はスクリーントーンの束を抱えて井の頭公園に向かいました。池のほとりでスクリーントーンを改めて見ると、この、折り曲げてはいけない紙とフィルムの束が、理由もなく憎たらしくなってきました。少女はまだ火の消えていないシケモクを拾って、スクリーントーンに火をつけます。
「こんなもの、燃えてしまえばいいのよ! お父さんだって結局、漫画家に馴れなったじゃない!」
…オチはありません。
