スイス出身でおもにドイツ映画界で活躍した名優ブルーノ・ガンツが、77歳で亡くなった。
ブルーノ・ガンツは、私が映画を見るようになった初期の頃からとても思い入れある俳優だった。ある本で「ベルリン・天使の詩」が取り上げられているのを読んで興味が湧き、見てみたのがきっかけ。ヴィム・ヴェンダース監督作品を見たのもそれが初めて。以後「ベルリン・天使の詩」は、私にとって特別な作品であり続けた。
「ベルリン・天使の詩」を見たしばらくあとに同じくヴェンダース監督作である「アメリカの友人」を見、ヴェンダース監督作品とブルーノ・ガンツのイメージが長らく結びついていた。そして、死を予感する詩人役の「永遠と一日」。これによってテオ・アンゲロプロス監督を知る。ヴェンダース、アンゲロプロス両監督の作品 ともに知ったきっかけが〈ブルーノ・ガンツ主演作〉であり、そういう意味でも、私の映画鑑賞歴の中では大きな存在であった。
その後「ヒトラー 〜最期の12日間〜」を見、また「バルトの楽園(がくえん)」では、まさかブルーノ・ガンツが日本映画に出演する日が来ようとは、と驚いたものだった。
ヨーロッパの俳優がアメリカ映画にも出演するケースは多いが、ブルーノ・ガンツの場合は、その知名度やキャリアの割には アメリカ映画に出演し始めるのが比較的遅かったように思う。私はそれを、名優を見られる機会が増える、と喜んだ。
「手紙は憶えている」や「ハイジ アルプスの物語」などの近年の作品、そして配信で見た「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」で珍しく演じていた悪役 (今この状況でこの邦題…… とは思うが) が、名優の生前に私が見た最後の演技だった。
劇場公開済みの最新作は「ハイジ アルプスの物語」であるが、撮影されたがまだ公開されていない作品があるらしい。それらの日本公開を願う。
長年映画を見れば見るほど、こんなふうに、自分の映画鑑賞歴の中で非常に重要な位置を占める俳優や映画監督らが亡くなる時というのに遭遇する。もちろん、その時がいずれ訪れることはわかっているし、避けようもない。ただ映画だけが遺される。