「え、ミサキが来るの?」
「そうよ、だってあたしまだ夕飯作ってる最中だもん。嬉しいでしょ?」
「…ミサキ、いやがってなかった?」
「ばかね、いやがるに決まってるじゃない。がんばってね。お小遣いはあげちゃだめよ。じゃ、あたし揚げ物しなきゃいけないから切るわよ」
こちらの返事を待たず、電話は切れた。
予報よりも早く降り出した雨は、春も盛りだというのに、ひどく冷たかった。
しかし、ここ数ヶ月口も聞いてくれない娘が傘を持ってきてくれると聞けば、そんなものは最早気にならない。嬉しさ半分、戸惑い半分で、「ありがとう」のあとに何と言葉を続けたらいいかを考える。
気の利いた言葉がみつからないまま、遠くに娘の姿を認めた。
何を気を遣うこともない。俺は父親だ。その場の流れで、いくらでも会話などできよう。なんせ、親子なのだ。
娘は片手に傘を持ち、ミニスカートに、パーカーを羽織った姿で無表情に歩いてきた。
「おまえ…寒くないのかそんな格好で」
「は?」
「そんな足出して…こんな天気なんだからもっと長いものを…」
「迎えに来てやったっつーのにありがとうの一言も言えないわけ?マジむかつく。つーか足とか見んな。オヤジ。あーキモイ」
これ以上もないくらい据わった目で言うと、娘は傘を持って帰っていった。
声が震えないように気をつけながら、妻に電話をした。
超短編のことを語る