かわいかったから、と言って友人がくれたのは、猫の刺繍がしてあるトイレットペーパーホルダーだった。
クリーム色のモコモコした地に、キジトラの猫が色鮮やかなクッションの上にちょこんとお座りしている図が刺繍されていた。
殺風景なトイレで、トイレットペーパーまわりだけが明るくなった。
紙に手を伸ばすとき、猫と目が合い、なんとなく、その顎の下あたりを人差し指でこすった。
すると、猫がゴロゴロと喉を鳴らした。
まさか、と思い指を離す。再びその顎の辺りに指をあてがう。何も音はしない。
そっとこする。すると、またゴロゴロと鳴り出した。
ひっくり返したり、電気に透かしてみたりしても、何も怪しいところはなかった。
そのうち動き出すのではないかとドキドキしたが、猫は喉を鳴らす以外はただの刺繍だった。
気付くと私はトイレに入るたび、猫の顎をこするようになっていた。
トイレで泣くことがなくなり、代わりに猫に愚痴を聞いてもらうようになった。
猫はいつでもゴロゴロ言ってくれる。
超短編のことを語る