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超短編のことを語る

クローゼットの隅から、『2』と数字をふったドロップの缶を取り出した。
中にはシルバーのアクセサリーが入っている。
ネックレス、指輪、ピアス、バングル。ごちゃごちゃに入れられたアクセサリーは絡まりあって、どれも黒っぽく変色していた。
趣味は、と訊かれると、シルバーのアクセサリーの収集と答えているが、私はアクセサリーをつけるのが好きではない。
指輪とバングルに2本の形違いのチェーンが絡まりついているのを、ゆっくりゆっくりほどいていく。ピアスはキャッチをはずし、ひとつひとつ並べていく。
30分かけて、準備が整った。『1』の缶アクセサリーと一緒にしまってある、銀磨きの布を取り出す。
友達にプレゼントされることもあるのでありがたく頂戴しているが、彼女たちは私がそのアクセサリーをつけないのを訝しんでいるかもしれない。
私にとってシルバーは身につけるものではなく、磨くものなのだ。
布を滑らせると錆が落ち、徐々にその滑らかな光沢を取り戻す。磨き上げられた銀の柔らかな輝きをみつめると、それだけで心が満たされていくのがわかる。休日のささやかな楽しみにとってある銀磨きは、それでも1時間もしないで終わってしまった。
名残惜しい気持ちで、神聖な輝きを放つ銀色をドロップの缶に閉じ込めて、また静かに錆びつくのを待つことにする。