鶏のモモ肉をまな板の上に乗せる。
包丁をあて、すっと手前に引く。肉が切れる。
羽根もない。骨もない。血もでない。
ふたたび包丁をあて、目を瞑り、すっと手前に引く。
肉を切る感触を覚える。
これは生きていたもので、今は食べ物だ。
ボウルに醤油とお酒と味醂を混ぜ、切った肉を放り込んだ。
手で混ぜ合わせる。冷たくやわらかい、肉。
片栗粉をはたいて油で揚げれば、香ばしい香りと共にからあげが出来上がるだろう。
冷たい肉は、ボウルの中で鶏の面影をなくして、味付けされている。
超短編のことを語る