いつものように、姉が部屋に来た。
パソコンに向かう私の後ろで、黙って漫画を読んでいたかと思うと、ひとりごとのように呟いた。
「結婚することになった」
え?と振り向く。姉は漫画を読んでいる。
「結婚?」
「そう、6月…え、ちょっと、何泣いてんの!」
「わかんない…なんか急でびっくり、したし…お、お姉ちゃんが出てっちゃうの寂しいし…結婚、するの、うらやましいし…お姉ちゃんの彼氏も、うらやましいし…」
「何言ってんの」
「わかんない…」
姉が袖を差し出してくれた。
もう気軽にこの袖を頼りにすることができないんだと思うと、涙は吸い取られた端から湧いて出てきた。
「お、おにいさんには、この袖、貸しちゃ、だめ、だからね」
超短編のことを語る