ふちの欠けたほうのお皿に、薄めにきったロールケーキをのせる。湯気の立つマグに漬かったティーバッグを引き揚げ、リビングでリモコンをいじる友人に声をかけた。
「フォークいる?」
「いらなーい」
「マグ、ムーミンとカボチャの、どっちがいい?」
「何カボチャって」
「去年のハロウィンの時期にケーキ買ったらオマケでもらったやつ」
「ムーミン」
ふちの欠けていないお皿とムーミンのマグを友人の前に置くと、彼女は律儀に両手を合せた。並んだ皿を見てぽつりと言う。
「自分のだけ薄く切ったでしょう」
「あたりまえ」
コンビニのケーキは、夜のおやつとして充分すぎるほどおいしかった。フワフワの生地を端から少しずつ齧り、熱い紅茶をすする。ジャックオーランタンを模したマグは、大層飲みづらかった。
一度も目を合わさない友人の目は、テレビの画面にも焦点を結んでいなかった。テレビの笑い声に合わせてたまにわざとらしく笑う。
私は最後のひとかけらを飲み込む。
「…ねえ」
「ん?」
「全部食べちゃおうか」
ずいぶん早くに食べ終わっていた友人がびっくりしたようにこちらを見た。目が合う。
「なにそれ」
「いいんじゃない、そういう日があっても。山分けね。脂肪もなかよく半分こ」
「どうしたのよ、鉄の意志。大丈夫?」
そう言いながらも、空いた皿をこちらに差し出す。
「こういう夜に食べなくてどうすんの。紅茶もう一杯淹れてくる」
超短編のことを語る