「こんな(代表戦のある)日に来るなんて、木戸さん(仮名)ホントはサッカー好きなんじゃないんじゃないですか?」
「うっせーよ、帰るぞ」
何かと思って行ったら、どうも後輩は一級建築士の資格試験で手痛いミスをしでかしたらしい。
直前の模試では上位10%に入っていたので確定だと思っていたが、冷静になれば解ける問題だったのに変に焦ってしまった、と言っていた。
なかなかデキる男で、わりとそちこちの有名レストランも設計してるし、海外での仕事もちょくちょくしてる。
一時期仕事を辞めていたが、そこからまた大きな仕事を取ってこれるのだから能力も実績もある。
一級建築士が受かったら、自分の事務所を拡大する予定でいたようだったし。
自分の夢に向けて一年の停滞はさぞ苦しかろう。
普段は先輩いじめっこ全開のやつなのに、微妙にしおらしい。「ギャフンと言え」と言ったならギャフンといったに違いない。
僕はそいつを慰めたり励ます言葉も持たず、ただ別れ際にハグして「元気で!」と言って手を振るのみだった。
自分の人間的な浅さを痛感するが、さらに「こんな時に考えてるのは後輩のことじゃなくて自分のことじゃないか」ということにも気付いてややへこむ。
取り敢えずメールした。
幸いあれかし。
