私は家族から一切の期待をかけられなかった。勉強をしろとは言われず、炎天下の庭で虫を見続けようが、雨水のたまった泥を掘り続けようが、ほうっておいてくれた。6歳の私が、大人のげたをはいて踊っていたのはフレッド・アステアのまねだとは、誰も知らなかったが、私は満足だった。世界をどんなふうに感じるかは全て私の自由だった。そのことが、今の私の人生をとても豊かにしてくれていると思っている。 (木皿泉・7月2日神戸新聞「木皿食堂」より)