ちなみに私が好きなのはダンナである。ひっくり返るのを恐れて、亀のように首を前に伸ばしながら、そろそろ車いすを自走させている姿を見るのが大好きである。65歳のオッサンのくせに、赤ちゃんのようなつやつやした顔で無防備に眠っているのを見るのも好きである。私の生活は、このダンナの介護を中心にまわっている。人から見れば私はいつも鎖に縛られていて、その先にこの車いすのダンナがぶら下がっているように見えるだろう。さぞかし重いでしょうと同情されているかもしれないが、そうではないのだ。いつも、好きという重しをぶら下げているおかげで、私は途方もない場所へ流されてしまうことはない。私が、どこにいても私らしくいられるのは、私の好きな彼のおかげである。
(木皿泉・6月4日神戸新聞「木皿食堂」より)
勝手に引用のことを語る